橋下知事と府労組の対決。以前であれば権力者の横暴と取られた知事の大リストラ策も、世論は完全に知事についたようです。小泉元首相同様、「仮想敵」作りに成功した橋下知事に見るコミュニケーション技術は何でしょう。
橋下大阪府知事の大胆な府政リストラ策は、人件費の大幅抑制など、府職員の強烈な反発を呼んでいます。当然でしょう。給与の10%カットとなれば、通常幹部以外の一般社員にとっては致命的なリストラですから。人事的常識からすれば、ある意味常軌を逸した削減幅とも言えます。
しかし大阪府は財政再建団体、になる寸前のボロボロ状態。普通の会社ならもう更正法寸前な訳ですから、こうした人件費まで切り込まれるのも当然と感じます。ぬるま湯に漬かり切った「お役人体質」の方々にはとうてい受け入れられないので、以前あった、労働組合女子職員の知事への「あなた呼ばわり事件」等、想像するに余りある役人根性が見て取れます。
昔なら、権力者である橋下知事の「横暴」というトーンで報道できたのかも知れませんが、今は違います。それがテレビで流された結果、「民間では考えられない非常識ぶり」とか批判はその労働組合職員に集中しました。
また府労組委員長との交渉もテレビが映し、「府民へのサービスを低下させて良いのか」という、これまた昔風反論をする労組に、「府民へも相応の負担をしていただく」という正論で押し切った知事への賛意が圧倒しました。
テレビタレントとしての橋下氏は、素人なのに「お笑い」をナメた、正直いけ好かない人だなと思っていましたが、この労組対決では圧勝だと思います。これは小泉元首相が「抵抗勢力」というレッテル貼りによって、自民党本流を根こそぎ圧倒し、自身の権力基盤を確立した手法と共通しているといえるでしょう。
「仮想敵を作る」というのは権力掌握における常道です。ナチがユダヤ人を迫害したのも、都合の悪い社会問題をすべてユダヤ人のせいに押し付けることで、第 1次大戦後、疲弊の極に達したドイツ・ワイマール共和国の混乱した治世に、「統率力と実行力」というナチの宣伝を行き渡らせる効果のためでした。
かつての南アフリカのアパルトヘイトでは、黒人支配のため、直接の弾圧を白人が行うのではなく、インド人や混血人を下級管理層として用いました。弾圧への憎しみを迂回させる効果がありました。
プロレスにおけるヒール(悪役)の存在意義は、いかにベビー(主役・善玉)を引き立てるかにあります。ヒールが反則や悪虐な行為をすればするほど、客は盛り上がります。
リビング・レジェンドと呼ばれる往年の名レスラー、ニック・ボックウィンクルは、父でやはりレスラーだったウォーレンから、「相手がワルツを踊ればワルツを、ジルバならジルバを踊れ」と、レスラーの極意を授かりました。
絶対にケガをさせてはいけない、というヒールの鉄則を厳守し、自らが反則だらけのヘナチョコ悪役王者として、地元レスラーの挑戦を受けつつも長きに渡り AWA世界ヘビー級王座を維持し続け、プロレスビジネス隆盛に貢献したニック・ボックウィンクル。彼はプロレスというビジネスにおける役割を心得、エンターテインメントとしてのメッセージを発することに忠実でした。まさに「プロ」レスラーだと思います。
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2010.03.20
2015.12.13
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。