83億円。ランニングウェア市場の規模だ。日経新聞1月24日朝刊・消費面コラム「数字・すうじ」によると、マラソン人気でランニングウェアメーカー出荷額が前年比9.9%増で、スポーツウェア全体の2.9%に比べて大きな伸長だという。
記事では<仕事帰りや休日にランニングを楽しむ若い女性が増加。こうした女性向けにワンピースやスカートなどのウェアの種類が豊富になり、買い増し需要が膨らむ>と指摘している。
記事中のランニングスカート、通称ランスカ(ニューバランスの登録商標)は、3年ほど前に海外で利用者の広がりを見せ始め、日本でもいち早く先進的なランナーが取り入れ、翌年ニューバランスやランナーズが国内で製品化し人気に火が付いたのは記憶に新しい。
当時ランナー達には、機能性サポートタイツなどをはいて走るスタイルが一般的になってきたものの、女性には腰回りのラインがはっきり出てしまうという問題が存在した。「かわいく腰回りを隠せるものはないか」という潜在的なニーズをすくい取ったのがランスカだったのだ。さらに記事中にあるワンピースは、DANSKINなどが、ランドレ(DANSKINの登録商標。ランニングドレスのこと)としてさらにフワリとしたシルエットを投入し、かわいさ需要を加速させたのである。
「女性が欲するスポーティは、機能よりもまずはスタイル」だといっても過言ではないだろう。見た目に「機能性度外視」とも思えるウェアを着ている選手はプロテニスプレイヤーのクルム伊達公子が挙げられるだろう。ブランドは「アディダス アディリブリアEDGE」。ヒラヒラと優美なシルエットは時にカラダにまとわりつき動きにくそうにも見えるが、かなりカワイイ。女性の目から見ても間違いなく憧れる存在に思うだろう。広告塔効果バッチリだ。
しかし、実はそのウェアはカワイイだけではない。ウェアの中の空気が流れ込み、熱と汗を外に排出して体力の消耗を防ぐ「クライマクール」という技術と、立体的なカッティングで身体の稼働をより自由にする「フォーモーション」という技術を取り入れているという。
カワイイのに実は機能がしっかり確保されているというウェアをマーケティングのフレームワークで考えてみよう。「製品特性3層モデル」。「製品」は、「中核」「実体」「付随機能」の三つに分けられる。「中核」とは顧客が製品やサービスの購入で手に入れたい主たる便益を表す。「実体」とは製品の特性を構成する要素である。「付随機能」とは、上記に加えて、製品の中核価値に直接的な影響は及ぼさないが、その存在によって製品の価値を高めている要素を表す。
スポーツウェアの「実体」は「運動のしやすさ」だ。それを実現する「実体」が「熱を逃がす」などの機能性である。通常のスポーツウェアはこのあたりをめいっぱい強調する。しかし、女性達のニーズはそこにない。「運動のしやすさ」に直接影響を及ぼさないが、製品の魅力を高める要素である「付随機能」の部分にある「かわいさ」の魅力付けを思い切り行っている。故に、機能性訴求よりもかわいさをより全面に押し出しているのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。