ダイソー「新市場開拓」としてのグローバル化

2009.02.23

経営・マネジメント

ダイソー「新市場開拓」としてのグローバル化

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「100円ショップ・ダイソー」としてバブル崩壊後の庶民に愛された大創産業は、100円ショップ業界で60%のシェアを誇り、第二位のキャンドゥを引き離すガリバーだ。しかし、原油価格の高騰は一服したものの、同社の成長期に比べ原材料費は上昇しており、メーカーからの「売り手の交渉力」は依然高止まりしている。

その影響から、同社は新規出店店舗の看板から「100円ショップ」の文字を外し「ザ・ダイソー」とのみ銘打っている。100円ショップを脱したダイソーは150円・200円といった価格帯の商品から、500円~1,000円・2,000円という価格帯までバリエーションを持たせた品揃えに転換している。
しかし、100円オーバーの価格帯商品が売上げ上位の商品にランキングされることは希で、消費者からは依然、100円商品が要望されているのは事実である。そのため、業界2位のキャンドゥは100円商品のみの取り扱いにこだわっているが、100円で仕入れられる商品供給先の確保に苦慮しているという。

国内市場の苦境に際し、底力を見せるのが大創産業のグローバルカンパニーたる、もう一つの顔だ。
同社は2001年に台湾・韓国への本格出店を皮切りに、以降、シンガポール、タイ、カナダ、UAE(アラブ首長国連邦)、 クウェート、カタール、インドネシア、 バーレーン、マカオ、 アメリカ、ニューカレドニア、 オマーン、 ニュージーランド、ルーマニア、 モーリシャス、サウジアラビア、ベトナム、マレーシア、レバノ、ヨルダンと漸次展開している。
その一つ、韓国市場での活況が伝えられている。

<あの「ダイソー」が続々上陸 1000ウォンショップ人気の背景>
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090222/kor0902221301001-n1.htm

1000ウォン(約60円)ショップとして、超物価と<不況に泣かされている韓国の主婦や学生たちの“救世主”>となっているといい、韓国全土で450店舗を構えるまでに至っているという。

原材料の高騰に始まり日本国内での成長の頭打ちに際して、次の成長戦略をどのように描こうかと同社は思案しただろう。
企業の成長戦略には、既存製品で既存市場を深掘りするのが最も堅実な展開であるが、100円ショップ業界にとって、それはもはや困難な選択肢だ。
だとすれば、残されるのは新市場を開拓するか、新製品を開発するかが主な方向性になる。新製品を既存の市場に展開するか、既存製品を新市場に拡大するか、もしくは新製品を新市場に展開する狭義の多角化という3つの残された方向性。ダイソーが選んだのは100円商品を中心として、海外という新市場に展開したのである。

低価格で商品を仕入れようと思えば、大量仕入れによってバイイングパワーを最大化すること。規模の経済を働かせることだ。国内市場に供給するだけでなく、地域的拡大を図れば市場規模はより大きくなり、規模の経済が達成しやすくなる。
さらに、原価低減を図るには生産地と消費地を近接させることが重要だ。B to Bの取引において原材料メーカーが得意先の工場の近くに自社工場を設けるのもそのためだ。100円商品の生産拠点が国内に少ない日本市場では価格維持が困難な状況であるが、韓国をはじめ、世界の工場たる中国、その他各国の生産拠点をフル活用して展開している各国において最も効率的な仕入れを実現しているのだ。

生産国と販売拠点の最適な組み合わせ。さらには、展開した各国の経済環境。さすがに今回の世界同時不況においては同社もダメージを免れないであろうが、不景気においては低価格商品が求められる通例を考えると、むしろフォローの風となるかもしれない。
同社が世界進出をはじめた2001年は、バブル崩壊後、経済環境の上昇を迎えたITバブルが崩壊した年だ。
バブル崩壊期に消費者の心をとらえ成長し、ITバブル崩壊に際し、瀬書き市場に進出したダイソー。不況の世界連鎖が広がる今日、同社がどのような戦いを展開するのか、大いに注目したいところである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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