創業期には適したトップダウン型の経営スタイルをいつまでも続けることはできません。求められるのは、社員一人ひとりが自立自走する組織への生まれ変わり。一人が百歩進むのはなく、「百人全員が一歩ずつ踏み出す」組織づくりの秘訣をお伝えします。
「どうせ……だよねぇ」
「そうそう(笑)言ってもムダだよ(笑)」
声を潜め、誰かの噂話をする女性3人組。タブーを作らずに全てを話す、という研修ルールに従って、私は彼女たちへ遠慮せず発言するよう促します。
「話しちゃいましょうよ。」
顔を見合わせ無言で笑う3人。
「部長ですか?それとも社長?」
弾ける様に一人が反応します。
「言っちゃってもいいですか?」
結局、研修中に出された社長に関する問題は三十数項目にも及び断トツの1位となりました。
「皆が社長の顔色ばかり伺っている」「上司が社長ばかり見て部下を見ていない」「上司に相談しても何も解決しない」などなど。
一言でまとめた結果「強すぎる社長と弱すぎる管理職」と括られました。
しかし、その中にひとつ、際立って目を惹くコメントがありました。それは「社長の実体でなくゴースト(亡霊)に怯えている」というもの。私はこれを書いたA課長に話を振ってみました。
「言ってもいないことがあたかも社長の言葉のように流布している、という意味です。おそらく社長ならこう言うだろう、と上司が勝手に判断し、過度に部下を締め付ける。そして全て社長のせいにしてしまうんです。まさに実体ではなくゴーストに皆が怯えているんですよ」と。
この一言で研修のムードがガラリと変わりました。それまで社長へと向けられていた追及の矢印が、管理職である自分たちへと向きを変えたのです。
「そうだよな。強すぎる社長が問題なんじゃなくて弱すぎる俺たちの問題なんだよな」と。
社長が見ているのは、部下の提案内容ではなく、それにかける本気の度合い。裸一貫で茨の道を切り開いてきた創業社長は、困難を解決する決め手が提案の完成度ではなく本気の度合いである、ということを熟知しています。
しかしそれを知らない管理職たちは、提案書づくりに四苦八苦して社長の顔色を窺っていたのですから、つき返されて当たり前。そんな過程から『社長のゴースト』がうまれたのは当然の結果といえるでしょう。
「そういえば、一度だけ社長が『好きなようにしなさい』と言ってくれたことがありました。その時、ボクは本気でぶつかっていたような気がします」
原因を他に求めている限りは何も変わらない。自分に問題点を見出す事がなにより大切なのです。
「皆さんも矢印を自分へ向けてください。もちろん社長にも同じお願いをすることを約束します。全員が一斉に矢印を自分へ向けたとき、組織は大きく変わるのですから」
私の言葉に大きく頷く受講生たち。そこにいる全ての人々が、変化の始まりをしっかりと感じ取った瞬間でした。
関連記事
2010.03.20
2015.12.13