会社にとって、すべての意志決定の基準となるはずの経営理念。しかし、誰も理念を覚えていない…暗記はしていても実践できていない…といった会社がほとんどではないでしょうか。なぜ理念が額縁に飾るだけの「お札」になってしまうのか。浸透の秘訣をお教えします。
「理念が大切なのはわかる。しかし、なぜ理念で大きく会社が変わるのか?変わっていくプロセスのイメージがまったく湧かないのですよ」
とA社長。
聞けば、同社は5年前に経営理念を定め、全社朝礼で唱和し、浸透を心がけているという。しかし、全社員が言葉を暗記できるようになったものの、それにより会社の風土が変わったようには見えないというのです。すぐにピンと来た私は、シンプルな質問を一つだけ行うことにしました。
「A社長の会社で理念を『約束』と捉えて、死に物狂いで守ろうとしている社員の顔が一人でも思い浮かびますか?」
うーん……と黙り込むA社長。私は理念で会社が変わる事例と変わらない事例について体験を交え伝えることにしました。
理念を言葉に定め額縁へ飾る。朝礼で唱和し暗記する。それだけで組織風土が変わるのならば苦労はしません。理念は魔法の呪文ではない。唱えるだけで会社が変わるような呪文は存在しないのです。
そうではなく理念を『約束』と捉え、必死に守ろうとする。自らの行動を徹底的に律し自ら変わろうとする社員が何人居るかで会社が変わるかどうかが決まるのです。
フェイス総研が理念策定・浸透をお伝えしたある会社の事例をお伝えしましょう。その会社では、経営者や幹部社員と共に長い時間をかけてこだわりの文言を策定しました。そしてそろそろ大筋が定まったその時に、私はプロジェクト・メンバーへ対し最後にこう質問したのです。
「皆さん。本当にこの言葉でいいのですね?」
と。するとメンバーたちは全員キョトンとした顔で答えました。
「今さら何を言っているのですか?散々時間をかけて言葉を作ってきたのはオグラさんも知っているじゃないですか?もちろん、この言葉でOKです」
私は真意が伝わっていないことを確認してもう一度、言葉を変えて質問することにしました。
「この理念は会社案内やHPで広く社会に宣言し『約束』することになるのです。この理念を定めた皆さんは、誰よりも理念を実行に移す言行一致を社内外のたくさんの方から求められ、チェックされることになる。皆さんが守らなければ他の社員たちが守るわけがない。皆さんは自分が定めた理念に対して誠実に、死に物狂いで実行し続けることを『約束』できるんですね?」
と。会社を変えるのは、理念が書かれた紙切れではありません。会社を変えるのは、死に物狂いで変わろうと努力するリーダーの存在なのです。
しかも、そのリーダーが「理念を実行しろ!」と相手を指さしても何も変りません。他人ではなく自分がまず理念を実行する。これまでとは別人のように行動を改める。そうして初めて組織に火が点き会社が変わり始めるのです。
真堅な表情で空を睨んでいたA社長はやがてゆっくりと頷きました。
「その通りですね。だからウチは変わらなかった。そして、その原因が今はっきりとわかりました」
経営に近道は無い。そして理念浸透とは経営の一部ではなく、経営そのものなのです。理念の浸透は付け焼刃の対策ではなく企業が永遠に追求し続けるもの。そしてその覚悟を持つのは経営者でありリーダーたちでなくてはならないのです。
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