有名企業でもない限り、採用とは求職者を選ぶ場でなく、「選ばれる場」。 給与や福利厚生を訴えても、優秀な人材は採用できません。 入社後に本人が活躍できる環境も大切。いくらキレイに見せかけても、求職者は社内の状況を敏感に嗅ぎ取るもの。採用力=企業力なのです。
「『今年の新卒はひどいね』と現場から言われました。採用がどれだけ大変か分かっているのか!と言いたかったけど、我慢しましたよ」
人事部のA課長が険しい表情で訴えかけます。苦労して採用した新卒社員を配属したら、現場からブーイングが出る…。よくあるお話です。
人事からすれば、これまでの努力を否定されたことに対する憤りだけでなく、大切な新人が上司からないがしろにされるのでは…。そんな不安すら抱くようになってしまいます。
「オグラさん。現場の人たちに新卒を大切にしなさい、と教えてもらえませんか?」
私は笑いながらあっさり答えました。
「いいですけど、私が言ってもムダですよ」
キョトンとした顔で見返すA課長。では、どうすれば…、と問いたげな彼の表情を見て、私は言葉を加えることにしました。
「でも、やり方はあります(笑)」
現場が新卒社員をかわいがって大切に育てるようになる唯一の方法は、採用と教育を現場主導型に変えることです。
つまり、これまでの人事主導スタイルを捨て、主要場面を現場スタッフに任せてしまう。例えば、採用の場面であれば、人事は求人広告掲載と面接予約受付などのコーディネート業務のみを行い、面接はすべて現場に任せる…。採用の決定権を現場に委ね、人事は裏方の事務局に徹する、という劇的な変革を行うのです。
自分で面接し採用を決定した以上、誰にも文句は言えません。結果、採用した人材を自分で責任をもって育てていくのです。
本来、権利と義務はセットであるべき…そう考えると、育成する義務を背負う現場には、採用権という権利を与えることが不可欠です。なぜなら、権利の無い義務からは不平しか生まれないからです。
同様に初期導入の研修など育成も現場主導がうまくい絶好の機会です。
ある企業では、文句ばかり言っていた現場に導入研修を任せたところ、その年から一斉に不平が無くなりました。
「人事はなんてひどい奴ばかりを採用しているんだ!」
と文句を言っていた現場が、
「今年の新人は素晴らしい奴ばかりだ!」
と言うようになったのです。
本来、人事が担うミッションは、全体企画立案と事務局機能であり、あくまでもプロデューサー的ポジションであるべきです。そして局所・局所に現場のスタープレイヤーや経営者をキャスティングし、彼らにきちんとセリフや振付を伝え、全体として最高の採用活動を演出するのです。
しかし、多くの企業はこのセオリーに反する行動をとっている。つまり、全体の総合演出を放棄して、面接や研修など、全体からすればごく一部でしかない目先の部分ばかりを追いかけてしまう。結果、人事が表面に立ち過ぎる、と現場から反発を買ってしまうのです。
自己決定させる、自己関与させることで主体性を持たせる。この基本原則を人事部も取り入れることが唯一の解決法なのです。
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2010.03.20
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