経営と現場、プロジェクトとライン部門、部署間など…。複数の立場の間をつなぐのが、管理職やプロジェクトリーダー。 私たちは彼らを「連結ピン」と呼んでいます。対立する両者の意見をまとめるのは大変な苦労。しかしこの役割こそが、組織の強さを決めるのです。
「この行動指針では厳しすぎる、もっと社員満足の視点を加えてほしい、という現場の声がたくさんあがりました」
ここは我がフェイスグループの社内プロジェクト会議室。各部署1名ずつの代表者たちが、当社の新しい理念をつくりあげています。先の発言は、メンバーの一人が全社員の意見を盛り込むため、自分の部署からヒアリングをし、結果を発表しているところです。
その報告に、どこか評論家的な匂いを感じた私は、彼に質問しました。
「皆の意見はわかったよ。それであなた自身の意見はどっちなの?社員満足の視点を加えた方がいいの?それとも今の行動指針のままでいいの?」
Aさんは即座に答えます。
「もちろん、現状案です。このプロジェクトで何度も議論して決めた原案ですから。厳しそうに見えるので現場の彼らは誤解していますが、社員満足の視点は十分に盛り込まれています」
背筋を伸ばし正面を向いて話す彼を頼もしく感じながら、私はさらに質問を追加しました。
「で、Aさんは今の意見をきちんと彼らへ伝えたのかい?きちんと納得させてあげられたんだよね?」
Aさんは
「えっ…」
と凍りつき、やがて小さな声でこう答えました。
「いえ何も伝えていません…。彼らの意見を尊重して反論せずにそのまま持ち帰って来ました」
私はすかさず答えました。
「いいかい、覚えておきな。そういうやり方を『ガキの使い』というんだ。それを続けている限り、会社は良くなるどころかどんどん悪くなっていくんだ。その理由を教えてあげようか?」
通常、プロジェクトのコアメンバーは、同時に部署の代表でもあります。つまり、二つの組織をつなぐ『連結ピン』です。
しかし、両者の意見がピタリと一致することは、ほぼ百パーセントあり得ません。だからこそコアメンバーには、二つのバラバラな意見をつなぎ、一つに統合していくことが求められます。
そのために必要なのは、両者の異なる意見に対して背景や目的をきちんと伝え互いの誤解を解いていくことなのです。
Aさんの場合、互いの違いを放置してしまった。『ガキの使い』として両者の意見をただ伝言すべく往復しただけです。
おそらくAさんに意見を伝えた現場の彼らはそれが通ると思っている。ところがプロジェクトではさらに深い議論で別な答えを出していきます。その結果に対して彼らはこう思うでしょう。
「俺たちの意見が無視された。どうせ何を言っても無駄だ。もう理念なんてどうでもいいや」
これでは、現場を巻き込み一体感をつくるために行ったはずのヒアリングが、逆に両者に溝を生みだすきっかけになりかねません。
「なんてことをしてしまったんだ…」
うなだれ反省するAさん。リーダーの大変さと大切さを骨身にしみたAさんが、プロジェクトという修羅場を通じて一皮むけた瞬間でした。
以上
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2010.03.20
2015.12.13