人事制度の目的は人を育てること。単なる給与分配の道具ではありません。しかし、多くの人が給与で会社が変わると誤解しています。人事制度は組織にとって、一歩間違えれば社員のやる気を奪いかねない劇薬。人事制度の新常識を公開します。
「あんなにドンくさいヤツが、あれだけ頑張ってたのに。今度こそはって、必死にやっていたんですよ…うっ、うっ」
次第に言葉が詰まり、最後は泣き声へと変わってしまったA部長。そして、涙を流す彼の姿を見つめる同僚たち…居合わせた全員がしーんと静まる中、店長は堪えようとしながらも嗚咽を止めることができなくなってしまいました。
ここは、フェイス総研がコンサルティングを行っているクライアント企業の会議室。半期に一度行われる、考課会議の一場面です。
半年前に最低評価をもらってしまい、悔しさに奮起したドンくさい部下は、それこそ死に物狂いで頑張った。しかし…それから半年過ぎた今回の会議でも、彼は二期連続となる最低評価に甘んじてしまったのです。
悔しい思いと、部下に対する申し訳ない気持ちから、涙が止まらないA部長。しかし、彼が流したこの涙、決して部下に低い評価を与えた他のメンバーたちを責めるものではありません。部下が抱える問題を理解しながら、彼を育てることができなかった、上司たる自分自身に矢印が向いている証拠だと言えるでしょう。
我々が設計する評価制度は、人事考課権を経営者から奪い取り、現場の中間管理職に権限委譲するシンプルなもの。
それまで、
「オレの部下に低い評価をつけるなんて、上司は現場をわかっていない」
と、上司が決めた人事考課に文句を言うだけの気楽な立場だった中間管理職たちは、経営の最重要事項である人事考課を決定する、という重大な責任を背負うことになります。
当然ですが、
「オレはお前を高く評価してるのに、ごめんな。こんな低い評価をしたのは社長なんだ」
といった部下へのフィードバックは、一切できなくなってしまいます。
権限と責任はコインの表裏。人事考課を決定する権利を得たからには、部下に対する厳しい評価結果を、評価された本人に伝え、納得させる責任も伴います。また、あちらを立てればこちらが立たず、という二律背反を経験することで、経営者と同じ視点で意思決定する醍醐味や辛さを味わうことができるのです。
「考課会議こそが最良の管理職研修である」
フェイス総研の考える評価制度は、その運用により、部下だけでなく上司こそが成長していく、という思想で設計されています。そのため、時には人目もはばからず涙を流すこともあるでしょう。また、時には胸倉を掴みあうような怒鳴り合いになることもあるでしょう。そんなプロセスの中で、部下の人生を背負い、今度こそは彼を育ててみせる、と固く決意した上司だけが、管理職として一皮むけた大人になっていくのです。
約束をして、それを守った数の分だけ人は成長していく。今日もまた、考課会議の場面で一つ約束が交わされました。半年後の晴れやかなA部長の顔が目に浮かぶようです。
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