リカルデントの新シリーズ「スマートタイム」。ガム市場で強大なシェアを持つロッテに挑むキャドバリーが、秀逸な戦い方をしている。
ガムをかみ始めた幼少の頃、駄菓子屋で買った、丸川製菓の「マーブルフーセンガム」。果物味の砂糖でコーティングされた、丸いガム。4粒で10円、当り付き。フーセンをふくらましたり、くじの当たり外れでドキドキしたりという付随的な楽しみも欠かすことはできないが、中核的な価値としては「口中に甘い味が広がり、それなりに長い時間味わい続けられること」ではなかっただろうか。少ない小遣い銭しか持っていない子供にとって、5円、10円という価格の駄菓子も多くは買えない。飲み込めないもどかしさはあるものの、長く食べ続けられるガムは欠かせないアイテムだった。
しかし、必ず親から言われることがあった。「いつまでも噛んでいると虫歯になるわよ」と。
そんなガムのポジショニングが劇的に変化したのは1997年のことだろう。「お口の恋人」、ロッテから「キシリトール ガム」が発売されたのだ。
1997年、虫歯の原因になる酸を作らない糖アルコールの一種であるキシリトールが、当時の厚生省から食品添加物に指定された。それを遡ること20年前から砂糖の代替甘味料としてキシリトールを研究していたとされるロッテは、事前に商標登録を済ませており、指定直後から怒濤の販売攻勢をかけたのである。
それまでのガムは、「口寂しさを紛らわせることができるが、虫歯になるリスクをはらんでいる」という存在だった。故に、「虫歯を気にしてガムを噛まない」層が多数存在した。
そんなガムが、キシリトールの配合によって、「歯を健康で丈夫に保つ存在」へと大きくポジショニングが変わったのだ。
キシリトール配合ガムによる虫う蝕予防効果には諸説あるものの、少なくとも虫歯を気にする必要はなくなった。それまでもグリーンガムやクールミントガムなどで、口臭予防や清涼感を求めてガムを噛む成人層はいたものの、「食後に歯に良いので噛む」というような、新習慣が広まったのである。
さて、話はようやく本題の「リカルデント」ガムに移る。
1962年に世界初のシュガーレスガムとして米国で登場した「トライデント」。その後継として登場した「リカルデント」は、牛乳のたんぱく質(カゼイン)由来のCPP-ACPを配合して、キシリトール上回る「歯を丈夫で健康に保つ」機能を実現したという。(キャドバリー社のWebサイトより)。
キャドバリー社が抱えているガムのブランドには、定番中の定番である「クロレッツ」がある。クロレッツにも現在では全バリエーションにキシリトールが配合されているが、どうしてもブランドのポジショニングとしては「息がキレイになる」という、口臭予防的なイメージが強い。そして、そのポジショニングは、昨今の消費者が求める価値とは乖離があるといえる。
同じキシリトール配合では勝てない。それ故、「歯に良い」という消費者のKBF(Key Buying Factor=購入理由)に合致したポジショニングをより強化した「リカルデント」で戦いたい。同社の思いはそうしたところだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。