ビジョンなんて理想論

2009.04.02

組織・人材

ビジョンなんて理想論

小倉 広

ビジョンをただの夢見物語だと思っていませんか? 単に壁に張り出しているだけでは何も変わりません。 ただ、ちょっとその使い方をちょっと変えるだけで組織は劇的に変わります。 今日は空回りするビジョンではなく、ちゃんとグリップするビジョンの作り方、使い方をご紹介します。

「オグラさん、ビジョンが大事と言うが、本当にそうなのか?
 我が社ではビジョンを発表したら余計に会社がおかしくなってしまったぞ」

私の講演中に出た質問です。一体何が起きているのか、興味をもって聞いてみると…。

その会社で起きていたのは、『五年以内に県内でナンバーワンになる』という
ビジョンに対する社員たちからの反発でした。

「社長は現場が見えてない」

「所詮は理想論だ」

「これ以上ノルマが増えるのはコリゴリだ」

社員の士気があがると期待していた社長は、予想外の反応に驚き、意気消沈…
そんなタイミングでの私の講演。社長は真偽を確かめに来たのでした。

「認知的不協和という言葉をご存じですか?」

突然の言葉に、はぁ?と驚く社長。私は、ビジョンが社員に与える影響について話すことにしました。

ビジョンや理念は、会社としての『あるべき・ありたい姿』。しかしそれを実現するには困難が伴います。
何度頑張って挑戦しても、目標を達成できない状態が続くことも珍しくありません。

そこで起きるのが『認知的不協和』。つまり『あるべき姿』と『現実』との間にギャップという不協和が生じ、
できていない自分が辛く、気持ちが落ち着かなくなります。

この場合、人はそれを二つの方法で解決しようとします。

一つは、『自分を変える』という方法。目標を達成できていない自分を反省し、
行動を変える努力をする。その先に待っているのはその人の成長と会社の変革です。
社員がこちらの道を選んだ時、ビジョンは会社に大きな変革をもたらします。

もう一つの解決法は、『相手を変える』というもの。まさにこの会社が陥ったケースです。
ビジョンそのものを否定し、それを作った社長を変えようとする。
自分ではなく、ビジョンの方が悪いのだと、未達成の原因を相手に求めて不協和を解消しようとします。

ビジョンは企業にとって諸刃の剣。うまくいくこともあれば、逆に会社を悪くしてしまうこともあるのです。

「なるほど、そうだったのか。ならば私はどうすれば良かったんだろう。ぜひ教えてほしい」

と社長。私は社員たちが前者を選ぶように導くための三つの方法を伝えました。

一つ目は、ビジョンを押し付けるのではなく、社員たちと共に参加型で作ること。
自分で作ったものを否定するわけにはいきません。そのためには社員の巻き込みが大切です。

二つ目は、『相手を変えず自分を変える』というセオリーの浸透。
例えば研修や行動指針などにより、相手のせいにするのは恥ずかしいことだ、と教えてあげることが重要です。

三つ目は、経営と現場との信頼関係を高めることです。現場の声を聞き、何度も繰り返し話し合う。
そして互いに理解を深め、尊重する心を忘れてはいけません。

私は熱く社長へ対して語り続けました。

「そうか、わかったよ。僕はどうやらやり方を間違えていたようだ。もう一度考えてみるよ」

社長は迷いが晴れたような表情でかばんを手に取り立ち上がりました。
ありがとう!と手を振り会場を出ていく後ろ姿に向かって、頑張ってくださいね、と念を送る私でした。

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