牛丼値下げ戦争・きっと吉野家はすき家に対抗すると思うワケ

2009.04.17

営業・マーケティング

牛丼値下げ戦争・きっと吉野家はすき家に対抗すると思うワケ

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

牛丼チェーンが値下げ合戦を繰り広げている。生活者としてはこの不況期にありがたい話だが、一方で「大丈夫なんかいな?」とも思ってしまう。しかし、大丈夫ではなくとも値下げせざるを得ない事情がある。そして、恒常的な値下げに慎重と見られる吉野家はすき家のシカケに渋々と乗らざるを得ないように考えられる理由が見える。

<不況で熱々 牛丼戦争再び?>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090416-00000114-san-bus_all

上記メディアが報じるところでは、すき家は<主力の牛丼とカレーの価格を今月23日から値下げすると発表した。すでに期間限定で値下げした吉野家と松屋に対抗し、恒常的な値下げに踏み切ることで来店客を増やして増収につなげるのが狙いだ>という。
客単価、売上げとも低下している同社には危険な賭に思えるが、<値下げで価格に敏感な消費者の来店を促す>といい、不況期で財布の紐が固くなった消費者を呼び込むことを優先した意志決定をしたことになる。

牛丼チェーンはもともと低単価、薄利多売のビジネスモデルだといえる。「いやいや、吉野家は営業利益率10%だと言うじゃないか」という論もあるだろう。そんなときは、坂口孝則・著『牛丼一杯の儲けは9円―「利益」と「仕入れ」の仁義なき経済学』 (幻冬舎新書)を読むと納得するだろう。同書はバイヤーの立場で書かれた良書であり、仕入れを下げることによって利益率をひねり出すことの重要性を説いている。つまり、利益率の高さは、強大なバイイングパワーのなせる業だ。
バイイングパワーの源泉は何か。それは「規模」だ。強大な仕入れ量を前提としたコストリーダーの戦い方の基本は規模こそ命である。規模の経済によって徹底的に固定比率を低下させるのだ。

利益構造の厳しい業界ではあるが、今回のすき家のシカケには同社の勝算がにじみ出している。メディアの分析によると、<吉野家と松屋は米国産の牛肉を主に使用しており、すき家がメーンとする豪州産よりも単価が約1・5倍高いため、(本来)コスト的に(恒常的な)値下げは難しい>という。自社も痛むが、競合はもっと痛むので値下げ対抗を抑止するという戦法だ。

しかし、利益率を保つため、対抗値下げをしなかったらどうなるのか。顧客を奪われることになる。つまり、規模が縮小するのだ。コストリーダーはシェアこそが命。シェア死守のため、必ず対抗値下げに踏み切るだろう。業界筋の見立てもそのようだ。

ただでさえ値下げ傾向にある業界において、価格設定は徹底したペネトレーションプライシングになっているのだ。ペネトレーションとは「浸透」。いかに市場に広く行き渡る、浸透する価格を設定するかがキモであり、シェア重視の価格設定法である。
利益は規模の経済で固定比率を圧縮しつつ、人件費は習熟度を高め高効率化し、原材料費の仕入れも抑えるという変動費部分の圧縮も欠かせない。つまり、顧客が奪われる、シェアが低下するということは、ペネトレーションが破綻することを意味しているのである。恐らく、対抗値下げは実行されるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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