思考の簡略化とは複雑な思考プロセスを省いて結論づけたり判断してしまうことですが、慣れや経験によって人が無意識的に行ってしまうものです。思考の簡略化が招く弊害は、本来必要な思考プロセスを省くことによって判断ミスに繋がるということです。つまり、このような思考プロセスをいかにして是正するかが重要となります。
先日、知人から慢性化していた首から肩のコリと痛みがすっかり治ったという話を聞きました。
「これまで、治療にはかなり時間とお金をかけてきたけど、そのどれもあまり効果がなく、ずっと引きずっていた。それが意外にも口腔外科に通って、顎関節症と噛みあわせなどの治療をしてもらったら、首から肩にかけての慢性的なコリと痛みが完治した」ということでした。
通常、首から肩のコリを直そうと考えるとき、整形外科、整体、マッサージ、鍼灸、パートナー・ストレッチなどで解決しようとします。例えば、整体士に痛みを訴えれば、姿勢矯正と寝方、歩き方を指導されるものです。その知人も様々な専門家に治療してもらいましたが、それぞれの専門領域に関する知識と経験に基づいて原因を探るのみで、根本的な解決には至らなかったようです。整形外科医も鍼灸師も、その原因の探り方自体はそれぞれの経験知に基づく判断でしかなかったと言えます。
その話を聞いて、彼らは知人の症状を見て、過去に経験してきた最も多い症例に当てはめようとしていたように思えてなりません。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
大きな1つの原因としては“思考の簡略化”が考えられます。
思考の簡略化とは複雑な思考プロセスを省いて結論づけたり判断してしまうことですが、慣れや経験によって人が無意識的に行ってしまうものです。
思考の簡略化が招く弊害は、本来必要な思考プロセスを省くことによって判断ミスに繋がるということです。つまり、このような思考プロセスをいかにして是正するかが重要となります。
思考プロセスを是正するにあたって、是非とも認識しておきたい考え方にヒューリスティクスがあります。ヒューリスティクスに関するメリットとデメリットを認識して日々の仕事に活かすことで、思考プロセスを適正化することが期待できます。ヒューリスティクスは、人間が不確かな状況でどのような推論過程を経て判断を下すのかということを研究した認知科学の成果です。言ってみれば、問題解決を行う際の思考の癖のようなものと考えてください。
ヒューリスティクスは3つのエラーとして捉えられています。
1つ目は「アンカリング・エラー」。これは、印象に残る直近の事象や情報に強い影響を受けてしまうことを表しています。例えば、「野生のトラの生息数は8000頭以上か、それ以下か」と聞かれた後に、「では何頭だと思うか」と推定させると、人はどうしても8000頭に引きずられてしまい、8000頭という数字が示されない場合に比べて、8000頭に近い数字を結論として導き出してしまうというものです。
2つ目は「アベイラビリティ・エラー」。自分が過去に経験した中でも、思い出しやすいことを目の前で起きている事象に当てはめてしまうというものです。たとえば、先程の首と肩のコリで整体師に整体治療を受けると、何かスポーツをしているかなどと聞いて、そのスポーツをする人に多かった症例を当てはめようとてしまう場合などがそれにあたります。
最後は「アトリビューション・エラー」。これは、1つのステレオタイプに頼った判断で、医師などが、原因不明の症状に対して更年期障害やストレスを理由にする場合などが考えられます。
これらはすべて、思考の簡略化の罠といえます。
人は生まれながらにヒューリスティクスに影響されていて、ミスをしない人間はいません。
冒頭で申し上げたように、知人の首と肩のコリの問題も、1つの症状に対して、各専門家が過去の経験や、自らの専門性に頼りすぎた判断(=思考の簡略化)に陥る事なく、より広い見地からその原因を捉えられるような診断が行われていれば、無駄な時間を過ごす事も無かったかもしれません。
“思考の簡略化”の罠に陥らないよう、みなさんもぜひ自身の意思決定・判断プロセスを振り返るようにしてください。特に自身が経験豊富・専門知識を保有している分野において要注意です。
思考の簡略化の罠にはまらないようにする先にこそ、新しい未来があるのです。
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2009.10.27
2008.09.26