昨年の吹石一恵に続き、今年は栗山千明のCMが話題のユニクロ、ブラトップ。その販売目標数は、昨年3倍増の900万枚だという。その未曾有の大量販売攻勢にこそ、ユニクロの戦略の本質が隠されているのではないか。
■海外で50万枚が意味するもの
900万枚という計画のうち、50万枚は海外での販売を計画しているという。ユニクロはかつての海外進出では辛酸をなめた。国内では「安くて品質がいい」という消費者のパーセプションを確立することに成功していたユニクロであるが、海外の消費者にはは、ただの「デザインのダサイ服」と映ってしまった。しかし、機は熟した。昨年発売したヒートテックが海外でも大反響を得たように、「安くて品質がよくて、何より機能性が優れている」という、他には代え難いポジショニングを実現しているからだ。今後はジル・サンダーとの契約によって、ファッション性も増していく。売れない理由はもはやなくなったのだ。
ユニクロの戦略の基本は「規模の経済」である。衣料品の製造小売りというSPAという業態は、単に販売するだけでなく、製造段階から関与する。さらに、売り方のキモは大量の広告攻勢で多店舗展開した自社の販売網に集客し、大量販売するというモデルだ。つまり、生産・広告・店舗と、その固定費は馬鹿にならない。しかし、国内マーケットを考えれば、少子高齢化で縮小は明らかであり、規模の経済を維持するためには、再度、海外マーケットの強化は欠かすことができないのである。ヒートテックに続いて、ブラトップは重要な先兵の役割を担っていることは間違いない。
■国内で850万枚の現実感
しかし、国内で850万枚である。単一のファッションアイテムで850万枚という数字はかつて例がないのが明らかであろう。その数のインパクトがどれほどなのか。ブラトップのターゲットは女性に限定されるが、年齢層を16歳から55歳としてみよう。すると、全国の対象年齢の女性を積算すると、3,280万人ということになる。それらのターゲットに850万枚のブラトップを売り切ろうと考えれば、3.8人に一人、購入させる必要があるのである。
かつて、柳井会長のインタビュー記事で、ユニクロを日本の国民服のような存在にしたいという発言を聞いた覚えがあるが、正にそれが現実化されつつあるという所だろうか。しかし、個々人の好みもあるファッションアイテムで、3.8人に一人の現実性はどの程度あるのか。
筆者の周辺にいる幾人かの女性にヒアリングをしてみた所、実際には全員がブラトップに対してポジティブな見方をしていないことがわかった。ファーストリテイリング社からのプレスリリースでは、『「ブラを付けない解放感」と「ブラを付けている 安心感」が両立し、美しいバストラインが決まります。』としているが、広告訴求では主に、「ブラをしてないみたいで楽」「つけない開放感」「つけてる安心感」という、らくちん志向のベクトルである。栗山千明は美しいのだが、商品の「美しい」はあまり強調されていない。
オトコであるこの身ではあまり明言は憚られるのであるが、ブラというものの本質的価値は何であろうか。日本初のブラジャーの原型を開発したワコール社。1950年代に初めて上市した「ブラパット」という商品はらせん状に針金を巻き、布をかぶせて乳房の形を美しく整える器具であった。つまり、本質的価値は「美しくすること」ではないか。「美の追究」をする層にはブラトップは心もとなく映るようだ。しかし、女性としては、ブラジャーの束縛感を忌避する声も多く、それが「ブラを付けない解放感」を求めたのであろうことも事実である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。