「人事で誰も傷つけたくない」こんな経営者は自滅します。

2009.06.21

組織・人材

「人事で誰も傷つけたくない」こんな経営者は自滅します。

小倉 広

経営者が社員へ伝えるメッセージのうち、最も強烈なものが「人材配置」「昇格・昇進」。社員はここでトップの本気度を測り、意図を判断します。これがズレたものでは組織はいずれ潰れてしまいます。 たとえば、勢いある若手と今まで組織を支えた古参。主従を逆転するにあたり、バランスを取った人材配置とはいかなるものなのか。小倉流にご説明いたします。

「出世がしたいんじゃない!」

 入社六年目、三五歳のA店長が苦渋の表情で訴えます。

「若手を潰して保身に走る体制には限界だ。オグラさん、次の組織変更で社長の決断がなければもう辞職します」
 
そして彼は店舗を去ったのです。

プロジェクト会議の席上、ぽっかり空いたA店長の椅子を見ながら若社長がつぶやきました。

「A店長には、次期エリア・マネージャーになってもらう予定だったんです。もう少し待ってくれれば…」

二桁に迫る店舗数を持つこの会社は五年前に社長が二代目若社長に経営譲渡。そんな中、若社長が自ら採用し最も信頼していたA店長の退職劇です。

「次はA店長たちの時代だ。君らがエリアを統括し、二十代が店長に抜擢される。いずれそんな風に変えたい」

様々な会議で若社長は繰り返し語りました。
しかし一方で若社長は胸の内をこう明かしてもいたのです。

「オグラさん。若手を抜擢したいが上の世代を切るワケにもいかない。彼らあってこその、今の我が社なんです…」

私は二年前から折に触れ、若社長へ次のように伝えていました。

「経営者が社員へメッセージを伝える方法はたくさんありますよね。給与や評価制度の考え方、経営理念や行動規範、そしてトップの講話内容など」

「ええ…」

「しかし最もストレートかつ強烈なメッセージが『人材配置』であり『昇進昇格』です。ここがズレていては他で何をやっても無意味。『なぁんだ、トップも結局クチだけか…』と。誰を組織の長とし、誰を長としないか。社員はそこでトップの本気度を測り、トップの意図を判断するのですよ」

それでも煮え切らない若社長が、皮肉にもA店長を結果的に退職に追い込んだ形になりました。

「弱者を守るつもりでした。勢いある若手は表舞台で目立つからいいじゃないか?影の薄い古株のポストを守ることが『バランスを取ること』だと。でも若手かベテランか、どちらかを傷つける以外に道はなかったのですね」

「社長!『傷つける』なんてネガティブな発想では物事は進みませんよ」

「え!?」

「だいたい『誰も傷つけたくない』なんて発言は『綺麗事』。キレイゴトだけ
並べている経営者は自滅します!」

私の強い口調に、驚く若社長。

「バランスを取る際には『主従の明確化』が重要で、フィフティ・フィフティ
ではダメ。今回の『主』は明らかに若手であり、古株は『従』。A店長が最も欲したのは金でも名誉でもなく『組織の主導権』でした」

「はぁ」

「この『主』を軸に置き、その他で『従』を組み立てるべきで、『主→若手に
組織の主導権を渡す』であり、『従→古株に体裁維持の肩書きと、生活を保
障する給与を与える』が正解だったのです」

「あぁ、それなら古株のメンツを潰すことなく主従関係を逆転できたのか…今までのオグラさんの言葉を真摯に受け止め、迅速に実行すれば良かった。組織に『いずれ』は通用しませんね…」
 
導く事はできても、最終的に決断し実行するのは経営者。
コンサルとしてのジレンマに陥るとともに、組織作りの要諦を改めて感じた瞬間でした。

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