バランスのとれた食事。 バランスの取れた運動。 バランスがとれていて悪いことは思い浮かばないですよね。 組織だってバランスが必要です。 ですがそのバランスをとるためには、時に真逆に舵を切ることも必要なのです。
「仕事が増えて手当がナシじゃヤル気も出んわ」
「それもそうですね…」
発言力のある古参A氏の意見に、皆が賛同しかけた時のこと。
「ちょっと待ってください!」
私は急いでプロジェクト会議を止めました。
十店舗を展開するホール企業、議題は
「接客サービス推進リーダーの処遇について」。
これまでの『接客レベル向上は本部インストラクターの仕事。
現場は本部に従う』というものを、今後は『店舗のことは店舗が主体的に動く。本部は店舗を支援するだけ』と、180度転換することが目的です。
店舗毎に新たに任命する接客リーダーについて
「役職はつけるのか?」
「給与手当は?」
などを話し合う中での、冒頭の発言でした。
「皆さん、『振り子理論』をご存知ですか?」
「フリコ?」
虚を突かれたのか、
社長を含めた8名のプロジェクトメンバーは
皆キョトンとした顔。
「今回の風土改革は、本部から現場への指令、つまり悪く言えば『やらされてる』というイヤイヤ感を、『やりたい!』という自発的行動へ転換するのがキーワード。要するに『主体性』が軸になりますよね?」
「だから変化に耐えうるバランスを取るため、現場に手当てをつけたほうが良かろう」
古参A氏が繰り返します。
そう、経営にバランス感覚は重要ですが、
なんでもかんでも「バランス命」にするのは大ウソ。
私は言いました。
「そういったお考えもご尤も。ですが皆さんの進めている風土改革はまさに『振り子』を逆に振るようなもの。やらされる仕事であれば手当をつけるべきです。しかし、やりたい仕事に必要なのは気概やプライドや心意気なんです」
すると、若干23歳のC主任が目を輝かせて口を開きました。
「オグラさん、そしたら報酬はお金じゃなく精神的報酬にするほうがいいって事ですよね!?」
彼はこのプロジェクトに参加して2ヶ月、
めきめきリーダーシップを現し始めた逸材。
社長も彼の成長ぶりに、満足そうに深く頷きます。
「ええ。実は彼・彼女を『接客のプロ』として尊重する事が、最大の報酬なんですね。例えば接客リーダーとしての名札や腕章、会議への特別参加、新入社員の教育係など、『誇らしい気持ち』を持たせる事。そして、それらの活躍を手当ではなく人事考課でプラス評価するのです」
「それじゃ従来のやり方と全く違う…」
動揺するようにA氏がつぶやきます。
「だからこそ、メッセージ性が強いのです。右に触れていた振り子をちょうど真ん中に戻そうとしてもこれまでの慣性で右に戻ってしまいます。そうではなく思い切って反対の左へとバランスが崩れるほど振り子を逆に振る。そうして初めてようやく真ん中くらいに落ち着くのです。それほどに人と組織の慣性は強い」
A氏が唸りました。
「金じゃなく気概で動きたい・・・若くて柔軟な社員ならきっと、そう言ってくれるか・・・」
どうやら会議の流れだけでなく、メンバーの意識まで変わり始めたようです。
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2010.03.20
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