おっと、今度の生茶はちょっとお得な555ml入り。消費者としてはうれしい限りだが、その太っ腹の意図はなんだろうか?
7月16日発売予定のキリンビバレッジ「キリン やわらか生茶」は、<カフェイン50%オフ(2009年「生茶」比)ですっきり飲みやすい>という。そしてうれしい容量は、<暑くてたくさん飲みたくなる夏ならではのご提案として、555ml増量ボトルを採用>なのだ。味わいは生茶特有の緑茶の甘みを、低温抽出法でさらに強化している。
(ニュースリリース:http://www.beverage.co.jp/company/news/page/news2009061102.html)
製品(Product)は上記の通り、スッキリとした甘みの緑茶で、カフェイン抑えめ。容量は通常より11%増量。
価格(Price)は通常通りの税別140円。コンビニでの店頭価格は税込みの147円。
販路(Place)は自動販売機でも販売するであろうが、ペットボトルを専用の凝った造りにしていることから、コンビニエンスストアの店頭で目立つことを狙っていると思われる。
販促(Promotion)はまだ目立った動きはないが、生茶ブランド全体で最近また強化している「生茶パンダ先生」の展開が予想される。
飲料全体と緑茶飲料カテゴリーのトレンドは、ここ1~2年、ゼロカロリー炭酸飲料ブームに押されて緑茶カテゴリーが失速している。しかし、季節要因を考えると、夏、特に気温が30度以上に上昇する真夏日が何日か続き出すと、甘みの強い飲料よりも茶系飲料やミネラルウォーターの売れ行きが増す傾向が顕著だ。つまり、7月中旬からが緑茶カテゴリーが盛り返すチャンスなのだ。
しかし、緑茶カテゴリーの最近のトレンドは「濃いめ」だ。カテキンの含有量を上げるため、特保を取得していない製品もこぞって高濃度製品を展開している。確かにカテキンはカラダにいいらしいし、独特の渋みも悪くない。だが、ゴクゴク飲むにはちょっとツライ。また、ゴクゴクたくさん飲んだら、さすがにカフェインも気になる。
その点、「やわらか生茶」のターゲティングとポジショニングは絶妙だ。暑い夏に「ゴクゴク飲みたい」ターゲットに対して、スッキリ甘くて低カフェインでカラダにもやさしい緑茶飲料を、お得な増量パッケージで提供するのだ。
コンビニでもこの展開は優位に働く。新製品は棚を取りやすく、さらにお得な増量パッケージとなれば、バイヤーや店主の発注量もついつい増えて、もう1~2フェース多めに棚を確保できるかもしれない。
ライバルの動きを牽制することもできる。緑茶カテゴリーは伊藤園の「おーいお茶」、キリンの「生茶」、サントリーの「伊右衛門」が3強で全体の6割のシェアを確保しているといわれている。そこに日本コカ・コーラが「綾鷹」で切り込んできた。
2007年にちょっと容量少なめの425mlで、価格ちょっと高めの157円というプレミアム緑茶として上市された商品である。しかし、世の低価格志向の高まりを受けて、日本コカ・コーラは今年5月に500ml、150円(税込み)の通常の飲料の価格と仕様に中味はそのままに引き下げてきた。自社の抱える「一(はじめ)茶織」とカニバリ(喰い合い)になるのを覚悟で、「高級本格派・緑茶飲料を手軽に買える」という戦略に出たのだ。
そんな「綾鷹」の戦略に対して、「夏は本格派より、スッキリ甘くてたくさんゴクゴク飲める方がいいでしょ!」という、「やわらか生茶」の戦い方は非常にシンプルだ。また、「綾鷹」は凝った造りのペットボトルを高級な中味を低価格で提供するためにが断念したが、「やわらか生茶」のボトルデザインはかなり店頭アピール力がある。昨今、ボトルのデザインは各社しのぎを削っているところだ。
「おっと、お得な増量パック」は単なる太っ腹の増量ではない。世の中の流れや業界の競争環境、そして何より消費者ニーズをしかりと深読みした結果の展開であるのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。