先日「ワンマン社長は悪である」というちまたにあふれる経営の「ウソ」を取り上げました。今回はワンマン社長と二代目との関係についてのお話です。 将来会社を担う二代目。カリスマ的存在の創業社長を超えなければ、組織は立ち行かなくなります。しかし創業社長の力が強いとついひるんでしまう。「頭でわかっているんだけど…」この物足りなさを解消するには…?
「本気で考えてるのか!」
顔を真っ赤にして叫ぶのは、七十歳に手が届く創業社長。
「真剣ならこんないい加減な提案出すか?!そもそも今の業績はオマエらの責任だ!だから任せられないんだ!」
満座の中で罵声を浴びているのは二代目社長と、その右腕たる営業部長。
「それはわかっています。だから…」
「だ・か・ら、じゃない!」テーブル全体を見渡すようにギロリと睨む創業社長。「わかっているならナゼ行動を変えないんだ、と言ってるんだ!」
気迫に圧倒され黙する一同。節くれだった不機嫌な手が湯飲みをつかみ、茶を飲む「ゴクリ」の音だけが響きます。
我々コンサルタントが提唱するコミュニケーション・スタイルとは真逆の創業社長。
それでも気概や情熱は並々ならぬもの。
『俺くらい真剣にやってみろ。いつでも社長なんぞ譲ってやる』。そう挑むような強い眼差しです。
緘口令を敷いたような静けさの中、
「以上!」
プツンとスイッチを切るように言い終え、社長は部屋を後にしました。
「ふぅぅー」二代目の長く静かな溜め息が、話の端緒を開きます。
「オグラさん、いつもこうなんですよ。僕だってこうやれば変わる、という思いは幾らでもあります。でもこれじゃオヤジと話をする気にすらならない」
この人の好い二代目に何か物足りなさを感じた私は、自分が二代目の立場ならどうするか…と思案するうち、ハッ、と温厚な顔が思い浮かびました。
大杉明彦社長。
映画と書籍のメディアミックスで世間をアッと言わせた、あの角川春樹事務所の後継社長です。
温厚な人柄の大杉社長は、超カリスマ的存在である春樹さんから絶対的な信頼を受ける、辣腕組織の№1なのです。
以前から親交のある角川春樹さんは、私に向かい感慨深そうにおっしゃっていました。
「オグラ君。大杉はね、すごいヤツなんだよ。アイツは俺が何を言ってもニコニコ笑って『ハイ、わかりました』って言うんだ。でも、そう言っておきながら平気で違うことをやっちまう。断りもせず勝手にやっちまって、不思議とそれがうまくいくんだ。それで俺も怒る気になれない。いや、結果を出すから怒らないんじゃないんだよ。アイツはそこまで『覚悟』を持って俺の言うことに背く。だからこそアイツを信頼できるんだ」と。
私が育ったリクルートという会社にはいくつかの不文律がありました。
その一つが「課長になってから課長の仕事をするんじゃない。課長の仕事をとっくにやっているヤツを課長にするんだ」というもの。
大杉社長は自身が社長になる前から、もう社長の覚悟をもち春樹さんに背いた。腹をくくって仕事に臨んだからこそ、不思議なほど物事がうまく運んだ。
裏切りとも取れる行為でさえ信念を持ち実行したから春樹さんも見守ってくれた、だからこそ社長になった。そういう図式だったのです。
さて、前述の二代目はどうでしょう。私は駅まで送って下さった二代目に、この
角川春樹さんと大杉社長のエピソードをお話しました。
二代目がどう受け取ったのかはわかりません。しかし無言でうなずく彼の目は、今まで見た中で最も強く輝いていたのです。
関連記事
2010.03.20
2015.12.13