ウォールマート流が日本の風土に合わず苦戦していた西友が、2008年からはじめた「KY(カカク ヤスク)」戦略以来、大きく転換している。イマイチ「空気読めない(KY)」だった外資手法の直輸入を日本市場に受け入れやすくする、抜群の「翻訳力」を身に付けたのだ。
セゾングループの中核企業であった西友が、バブル経済崩壊後の経営失敗の影響から抜け出せずにウォールマートの資本参加を受け入れたのは2002年のこと。以降、あれよあれよという間に資本比率は高まり、2008年についに完全子会社化され上場廃止に至ったのは記憶に新しい。
米国流通大手は資本だけでなく販売手法も輸入してきた。ウォールマート流のキモは「EDLP(エブリデー・ロー・プライス)」。いつでも低価格であるということを訴求・定着させチラシを用いず週末にまとめ買いを促す。しかし、日々チラシをチェックしてこまめに買い物に来る日本の主婦の購買行動にはEDLPは適さずに苦戦が続くこととなった。
西友の変化は何といっても2008年11月から開始されたKY戦略からだ。「KY(カカクヤスク)で行こう!」というスローガンのもと、生鮮品や冷食を中心とした一層の値下げを敢行し、さらに「他社のチラシに掲載された特売価格が西友よりも安い場合に販売価格を引き下げる”他社チラシ価格照合”制度」を開始した。
西友は大手スーパーの中でもプライベートブランド(PB)商品の比率が10%程度と低く、他店と比較しやすいナショナルブランドが多いという背景が前提の戦略であるが、自社の状況だけでなく、毎日チラシをこまめにチェックするという日本の主婦の購買行動を的確に捉えた戦略であるといえる。
本家米国ウォールマートの最近の大きな動きといえば、家電製本の強化だ。家電量販大手のサーキットシティが昨年11月に連邦破産法11条の適用を申請。今年1月に再建を断念して清算に踏み切った。その宙に浮いたシェアを手中に収めるため、全米のウォールマート3500店舗で家電売り場を拡充。その戦略が奏功し、従来顧客より所得の高い層の取り込みまで実現し活況を呈しているとメディアが伝えている。ウォールマートの巨大な調達力が家電製品を引っぱってくる。当然、米国内だけでなく海外にも供給する余力がある。それが西友に向かってくる。
ところが、その打ち出し方からは「ウォールマートの調達力で、日本の家電価格を引き下げるぞ!」的な強権さは微塵も感じられない。CMが絶妙なのだ。
「コジマさーん」
「ヤマダさーん!」
「あ、ビックさん!」「ハーイ!」
「タカタさん!」
「どうしたの、みんな西友にあつまっちゃって!」
だってスーパーの冷蔵庫がスーパー安いんだもの。
家電も安く。西友。
競合はスーパーではなく大手家電量販店。ウォールマートの調達力を活かして、それに負けない安さを実現しているという訴求ポイントは強烈。しかし、そんなことはひと言もいわず、あくまでシュールにおちゃらけを装っている。正面切っての競合比較を好まない日本市場をよく理解した表現である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。