メンタルヘルスへの取り組み方を間違えるな

2009.08.04

組織・人材

メンタルヘルスへの取り組み方を間違えるな

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

メンタルヘルス問題は、このままだと医師の商売ネタとして大きくなっていくだけではないのだろうか。

コンプライアンスがどうして上手に機能しないかというと、この課題に対して法律の専門家の意見を聞いて取り組んだからではないか。その結果として、法令の遵守が何より重要だと考えるようになり、法務部が当事者となるべき課題であるとし、リスクをコントロールするためにはISOを初めとする資格を取得することが大切だという流れになったわけですが、こういう取り組みは成果を上げているのでしょうか。

「成果を上げている=何も起こらない」ということなので、はっきりとその効果を測ることは難しいわけですが、依然として起こり続ける企業スキャンダルを見ると、謝り方だけ上手になっていっているようにしか思えません。これは、ちゃんとした企業統治には仕組み作りや資格取得が重要だ、という法律家のアドバイスに基づいた取り組みの失敗を意味するのではないのか。

郷原信郎さんが指摘するように、コンプライアンスは社員個々の誠実性と組織風土の問題に帰結していきます。仕組みや資格でなく、ヒトや組織に焦点を当てないとだめ。コンプライアンスを実現するには、良心ある人材の育成と健全な組織運営が肝要であるということです。そうでないと、「法令遵守」→「法さえ守れば良い」→「モラルハザード」→「事件勃発」→「法を守れ」→「法令遵守」という悪循環が止まらない。

今、正に同じように、メンタルヘルスへの企業の取り組みの多くが、医学的見地からのアドバイスに基づいて行われようとしています。やはり同様に、うつ病などの危機感を煽った上でそれをフォローする仕組み作りが重要だとし、医学的な問題解決を奨励しています。

これは、コンプライアンスへの取り組みの失敗と同じになるのではないか。そして結局のところ、メンタルヘルス問題が医師の商売ネタとして大きくなっていくだけではないのか。メンタルヘルス問題は、本来の組織人事の課題の延長にあるのであって、別に位置づけてはいけません。つまり、良質な組織風土づくり、ストレスに対してしなやかで強い人材の育成と、それを育むカルチャーづくりに焦点を当てることが本質で、そうでなければ、コンプライアンス同様、やはり問題が大きくなっていく一方ではないかと考えます。

組織人事・社員研修のことならイニシアチブ・パートナーズ

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

フォロー フォローして川口 雅裕の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。