会社に「棋譜」はあるか。

2009.08.26

組織・人材

会社に「棋譜」はあるか。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

秩序ある組織に必要なものは何か。

将棋の棋士は、頭脳明晰な文化の担い手であるという側面もありますが、一方では勝ち負けで収入を得ている勝負師であります。1年で20~50回の対局の勝ち負けみで全てが決まる、年齢や安定などとは全く関係なく、ただ勝ち負けだけで地位が決まる世界に若くして飛び込むわけですから、基本的に一匹狼、お山の大将タイプで、相当に自分勝手な個性的な人間の集まりとなります。

こういう人たちが集まると、普通は「組織」にはならないはずで、ルールを守らないだとか、組織全体のことや今後のことも考えない勝手な言動が増えるはずだと思いきや、これがそうではなく、先輩を敬う、伝統を守ろうという姿勢が非常に浸透していて、秩序ある状態となっていることにいつも感心させられます。普通の人が集まる組織でさえ難しいことが、なぜ彼らに可能なのか。

思うに「棋譜」の存在が大きい。江戸時代、名人が世襲制であった頃から最近まで棋譜がしっかりと残されており、その棋譜から過去の人たちがどのように考え、工夫をしながら戦ってきたかが分かる。その結果として今の定跡やセオリーが出来ている共有することができます、また棋譜から見える先輩達の努力の上に自分達が乗っかっていることを理解することができます。そうすると、昔と今ではどちらが強いかとかいう単純な話にはならないし、昔の将棋は古臭いといったような高慢な考えも生まれてきません。

ひるがえって、会社組織に「棋譜」はあるか。先輩達が築いてきたものや会社を継続発展させるための努力の軌跡が残されているか、なくてもそれらが語り継がれているか。秩序ある組織とするためには、当然にルールやしつけ、加えて、理念や目的が必要でありますが、歴史やエピソードほどリアルで説得力があるものはない。昔話を軽んじてはいけないということを、将棋界の組織の秩序に学ぶことができます。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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