商品を手に取って「デザインがいい」などという評価することがある。それは競合商品をチェックする企画担当者や、流通で仕入担当するバイヤーなどだけではない。一消費者として日常的に口にするセリフではないだろうか。しかし、その「デザイン」をどの程度の価値として評価しているのだろうか。それが嗜好性の高いアパレルなどでなく、日用品だとしたら。
家庭向け消臭・防虫剤・除湿剤などの家庭雑貨製造のエステー。旧社名エステー化学から社名変更をして2年が経過した。同社の変革はその商品の形状にも現れる。ニュースリリースによれば、“デザイン革命”として、<既存商品を見直し、コア商品すべてに対して全面モデルチェンジを行うことで、新規ユーザーの獲得、マーケット拡大を図っていく>という。
では、その成果はどれほどのものか、発表された”デザイン革命”の第一弾商品を見てみよう。
<「自動でシュパッと消臭プラグ」と「消臭プラグ」>
http://www.st-c.co.jp/topics/2009/000294.html
なんともシンプルにしてやさしいデザインに仕上がっている。商品本体だけではない。その商品パッケージも秀逸な仕上がりである。
それもそのはず。デザインを手がけたのは、デザインオフィスnendoの佐藤オオキ氏である。同氏は日本国内だけでなくイタリア・ミラノにも拠点を構え、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックデザインといった多岐にわたるデザインを手がける世界的デザイナーである。
本来、「消臭プラグ」にはどんな価値が備わっているべきなのか。
商品としては、部屋に置いて一定期間ごとにミストを自動で噴霧して気持ちのいい空気を創り出すということが中核たる価値である。その商品特性としては、部屋の隅々までミストを拡散させるためには部屋の中央や目立つところに置くことが望ましいだろう。しかし、自動タイプであるか否かは問わず、今までの消臭・芳香剤の商品形状やパッケージを見ると、それが部屋の中央に鎮座ましましているのはありがたくないデザインであったといえる。仕方なしに部屋の隅や物陰にひっそりと隠すように置くことになる。
何故、部屋に消臭・芳香剤を置くのかをさらに突き詰めて考えてみると、「快適な気分になりたいから」なのだ。部屋の空気が快適になっても、その快適のもとがダッサくってイヤな感じなら快適さは半減だ。
つまり、中核たる価値を「気持ちのいい空気を創り出す」ではなく、「気持ちのいい空間を作り出す」と考えれば、「気持ちのいいデザイン」は、あればうれしい付随的な機能、オマケではなく、中核たる価値を実現するために欠かせない、実体としての価値なのである。
別の言い方をすれば、「消臭・芳香剤として、優れた消臭効果、いい香りの商品を開発しました」はモノのスペックとしての「工場品質」を実現したにすぎない。人が感じ取る価値そのものである「知覚品質」を実現するなら、「快適を演出する気持ちのいい存在」を構成するデザインも本来欠かせないのである。
そうして考えると、日用品をはじめとして、我々が日々手にするモノや目にするモノの中で、まだまだデザインに手を入れるべきモノがあるのではないかと思う。
エステーの“デザイン革命”はまだまだ始まったばかりだ。
是非、これからも「デザインの力」をみせて欲しい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。