企業業績への大きなリスク:国際会計基準の年金会計

2009.09.14

経営・マネジメント

企業業績への大きなリスク:国際会計基準の年金会計

野口 由美子

国際会計基準の年金会計は大幅に変更される方向で議論が進められています。従業員に対する退職金がこれまで以上に企業業績を大きく変動させる要因になりそうです。

本サイトへの投稿記事は
aegifの国際会計基準専門ブログ IFRS of the day(http://aegif.typepad.jp/ifrs/)より引用しております。

企業から従業員に支払われるお金というとまず最初に頭に浮かぶのは月々の給与ですが、
給与以外で企業が従業員に対する給付も企業にとってかなりの負担となります。
例えば、アメリカのゼネラルモーターズ(GM)は従業員への医療費負担が経営破綻の引き金になったと言われています。
従業員が退職してから死亡するまでの医療費はかなりの額になりますが、GMでは企業が負担する額(約320億ドルあったとも言われています)を予め費用計上していなかったということです。

従業員への退職後の給付をどのように費用計上し、財務諸表に反映させていくかということは非常に重要な問題です。

現在国際会計基準審議会(IASB)では年金等の退職後給付について審議を進めており、会計処理が大幅に変わることになりそうです。

現在の年金会計では、
将来から長期にわたって支払うことになる年金債務や年金資産を計算で見積もって、見積額をベースに処理をします。
見積りと実際の額の差異については
毎年多少の差異は誤差として放っておきます。
誤差の幅をコリドー(回廊)と言います。
毎年多少差が出ても長期にわたってみればその変動もプラスマイナスゼロになるだろうという考えを前提としているのです。
しかし、その多少の差異、つまりコリドーを出てしまった分については
何年か年数をかけて少しずつ償却して認識することになります。
つまり、年金の資産や債務に変動があってもその差異は長期にわたって償却するので
企業の業績に与える影響はある程度抑えられていました。

ところが、現在IASBではこの考え方をやめようとしています。
コリドーや償却をやめて、差異のすべてを即時認識することが暫定的に合意されたのです。
そうなると、例えば金融危機で年金資産の価値が大幅に減ってしまった場合、その目減り分が損失として計上されることになります。
これはかなりのインパクトで企業業績が年金の運用次第で大幅に変わってしまう状況が予想されます。

ただ、まだ審議の途中なので決まっていないことも多くあります。
その1つに、計上方法があります。
当期損益に反映させるべきか、その他の包括利益とするべきか、というところで議論が分かれています。
これは企業の収益をどのように見せるべきかという根本的な問題にもつながります。

国際会計基準の改正は日本の会計基準にも影響を与えます。
日本企業もIASBの審議に注目していく必要があるでしょう。
今後の動きについてはまたご紹介していきたいと思います。

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