JR東日本の駅ナカで1万台の飲料自販機を展開している「(株)JR東日本ウォータービジネス」。同社はこの秋「自販機イノベーション宣言」なる取り組みを開始した。その活動と狙いは一体何だろう。
販売チャネルの構築は、顧客がその商品を購入する際にどんなニーズを持っているかを考え、それに応えることが基本である。
では、飲料を購入しようとした場合の顧客ニーズはなんだろうか。飲料に求めるのは「喉の渇きをいやせること」である。そのニーズにいかにすばやく対応するかが肝要であるが、例えばスーパーマーケットでしか売られていなかったとしたら、レジの長い列に並んで買うなど全くニーズに対応できないことになる。故に、買い置きを前提とした2リットルの大型ペットボトル入り飲料ならともかく、すぐ飲むことを前提とした500ml以下の飲料は「いつでも開いているコンビニ」や、「どこにでもある自販機」がチャネルとして展開されているのである。
しかし、ウォータービジネス社はあえてその自販機ビジネスの有り様に問題提起をしている。同社の資料によると、自販機は現在全国に約240万台が展開されているという。しかし、ここ何年も台数は頭打ちの飽和状態が続いており、清涼飲料販売シェアが90年代の50%弱から約35%にまで低下しているという。そのシェアを奪っているのはコンビニエンスストアである。
同社は問題を自販機が「単一ブランド機」が主流であることと指摘している。自販機は飲料メーカーが自社製品の販路確保のために展開し、メーカー系の「オペレーター」といわれる担当者が商品の補給などを中心にして、設置した自販機をフルメンテナンスしている。当然、各メーカー系の自販機は、自社商品一色となる。
自販機で飲料を購入する時のことを思い出してみよう。街中で複数のメーカーの自販機が並んでおいてある場合などは、「どの自販機から買おうか」と考えることはあるだろう。しかし、喉の渇きを覚えてふと、目についた一台の自販機で飲料を購入しようとした時、茶系飲料にしようか、炭酸にしようかと一瞬考えはするものの、悩んだりはしないはずだ。なぜなら、選択肢がないからである。
メーカーにとって自社商品が同一カテゴリーに複数の商品を展開することは、自社商品内のカニバリ(共食い)を招くことになる。故に、まったくポジショニングがかぶる商品が同一自販機に展開されることはなく、消費者は知らず知らず、選択肢が与えられていない状況になっているのである。
一方、コンビニエンスストアで飲料を購入する場合、弁当や菓子、その他商品を買った時の「ついで買い」が多いだろう。弁当の場合まず、どの弁当にしようかなと選んで買う。その後、飲料も飲料の棚の前で「どれにしようかな」と選んで買う。それはまさしく「買い物」である。しかるに、自販機での購入は「買い物」ではなく「補給」といった風情にしかならない。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。