地産地消のお手本・チチヤス「生産者限定牛乳」

2009.09.28

営業・マーケティング

地産地消のお手本・チチヤス「生産者限定牛乳」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 全国的には「チチヤス」といえば「ヨーグルト」が思い出されるチチヤス株式会社は、広島県廿日市市に本社を置く牛乳・乳製品の製造販売業者である。同社が広島地区で展開している「生産者限定牛乳」は、まさに地産地消のお手本であるといえる。

 チチヤスという名前でヨーグルトが思い出されるのも無理からぬことで、同社は1917年(大正6年)に日本で初めてヨーグルトを発売した企業なのだ。また、その後ガラスビンで販売されていた製品を今日のプラスチック容器に変更したのも、また同社である。

 そんな、ヨーグルトで有名なチチヤスは実は牛乳にもしっかりこだわっている。廿日市市の本社工場にはチチヤス牧場という観光牧場が併設されており、そこで乳牛の育成も行って、生産もしっかりやっているのである。
 そうしたこだわりが結実したのが、2008年に発売された「11人の生産者限定牛乳」。(現在は「生産者限定牛乳」と名前を変更して販売。)廿日市市佐伯・吉和地区、安芸高田市美土里地区の同社契約酪農家から、直接集乳した広島産原乳を使用し生産。広島地区限定で販売している。
 通常は生乳は一県単位の指定法人によって一元集荷し、全県の乳を一つの酪農関係団体が一元集荷をして複数の乳業者に販売する「一元集荷多元販売方式」がとられている。それは生産者にとっては効率化と価格の安定という恩恵をもたらすが、多数の生産者の生乳が一元化されるということは、生産者の顔が見えなくなることを意味している。食の安全が叫ばれて久しいが、2008年はまさに、中国製乳製品でのメラミン混入事件が発生するなど、トレーサビリティーに対する要望が極めて高まった時期でもある。
 同社のWebサイトには、現在は10人の生産者の姿とその生産に関するこだわりを語る、生の声が掲載されている。発売当初は商品パッケージにも11人の生産者の言葉が印刷されていたという。牛乳において、まず、これ以上の安心感はないだろう。殊に、地域限定の販売であれば、「廿日市市佐伯・吉和地区、安芸高田市美土里地区」といわれれば、「ああ、あの辺りか」と土地勘も働き、さらに身近に感じるはずだ。まさに、地産地消のお手本である。

 しかし、消費者への安心感を提供する「生産者限定」は結構なことなのだが、牛乳の場合、実はさらっとひとことで片付けられるほど簡単なことではない。それは昭和30年代後半に構築された「一元集荷多元販売方式」という、業界のサプライチェーンから離脱することを意味しているからだ。指定法人が一元的に集荷した生乳を仕入れるという、サプライチェーンの最初の部分を、自社で10軒の生産者から多元的に集荷するという、自社のバリューチェーンに組み込むという組み替えを行ったのである。当然、その手間はかなりのものになる。しかし、それによって生産者の顔が見える、トレーサビリティーの確保という代え難い付加価値を生んだのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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