長崎の名物料理「長崎ちゃんぽん」を全国展開するリンガーハット。昨今の不景気の中で客足を維持したい外食産業が軒並み低価格戦略に舵を切る中、同社は逆張りの値上げ戦略に転換した。その勝算はどこにあるのだろうか。
リンガーハットの値上げは3年ぶりのことである。当時、世界中で食糧価格が高騰し、小麦をはじめとした穀物価格は最高値を記録していた。その原材料価格の上昇を定価に転嫁し、2006年9月、レギュラーちゃんぽんの値段が税込み399円から450円に引き上げられた。リンガーハットの多くの店舗はカウンターにスツールというファストフードスタイルであるが、399円というファストフードらしい手ごろな価格も人気の一因であったのは間違いない。それが10%以上の値上げで400円台中盤の価格になったのだ。結果として客数は激しく落ち込み、その回復に同社は大変な苦労をすることになった。
では、今度の値上げは大丈夫なのだろうか?
価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。自社視点(Company)・競合視点(Competitor)・顧客視点(Customer)の3つである。
2006年の値上げを考えてみよう。
小麦などの原材料費の高騰は、生産原価の上昇を表わしている。価格設定における自社視点を、「原価志向」の価格設定といい、生産にかかったコスト(固定費の償却分+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。一定の利益を確保するためには、値上げやむなしという考え方になる。
もう一つの競合視点を「競争志向」の価格設定という。競合となり得る商品を特定し、競合と全く同じ価格にするのか、その上下、何パーセントぐらいに設定する考え方である。では、「長崎ちゃんぽん」の競合は何かと考えてみる。同じ「中華系の麺類=ラーメン」と仮定しよう。ラーメンの平均的な価格は、「その地域のタクシーの初乗りと同等」などといわれているため競合視点で考えれば、値上げしてもまだまだ競争力は保てると判断できる。
しかし、問題は3つめの顧客視点だ。「需要志向」の価格設定という。端的に言えば、この視点は「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということである。この部分が欠落していたために、2006年の値上げによって顧客離反が相次いだと解釈できる。
2006年以降も小麦の相場は上昇を続けた。政府の売渡価格は2007年4月に1.3%、同年10月に10%、2008年4月は30%、10月は10%値上げした。その間はリンガーハットはさらなる顧客離反を回避するため、原価を価格に転嫁することをせずに踏ん張ったのである。
しかし、相場は2008年夏から下落し、2008年6月~2009年1月の平均買付価格は、2007年12月~2008年7月より30.5%下がったのである。では、なぜこの時期に値上げなのだろうか。値上げ幅は、販売価格を40~100円にあげるという。2006年の値上げと同等かそれ以上である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。