2期連続で増収増益、8年ぶりに最高益を書き換え、「一人勝ち」といわれるファーストリテイリング。今月8日に前期連結決算を発表したあとに、東証で記者に囲まれコメントした柳井ファーストリテイリング会長兼社長の言葉は、事実上の「無敵宣言」と解釈できる。
日経MJが10月12日に報じた中で、特に2つのコメントが目を引く。その一つめ。
<-低価格品が増えるなかで価格政策は。「(高価格帯から低価格帯まで)全プライスをやっていく。(ジル・サンダー氏がデザインした)プラスジェイの価格は1,000円かもう少し上がっている。でも価値はこれまでと同等かそれ以上。顧客から見た価格は相対的に上がっていない。」>
「バリューライン」という考え方がある。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の二軸を取る。すると、「安くてそれなりの価値のもの=エコノミー」「中間価格で、中間的な価値のもの=中価値」「高くて価値の高いもの=プレミアム」という比例関係が出来上がる。これがバリューラインだ。
勝てる価格設定をしたい場合、このバリューラインを超えるポジションをとる必要がある。「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」「中価格なのに高価値と同等の価値=高価値」「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」となる。
柳井会長兼社長は、今年3月に行われた傘下のジーユーの戦略説明会で以下のような説明をしている。「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」と。
ユニクロはかつて「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」
の戦略をとっていた。それを、990円ジーンズのジーユーを「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」の戦略として展開し、ユニクロは「中価格なのに高価値と同等の価値=高価値」の戦略へと移行させる。つまり、全体として価格帯を引き上げることを暗に表明していたと解釈できる。しかし、8日の発言では「顧客から見た価格は相対的に上がっていない」という。つまりユニクロは、相変わらず「スーパーバリュー」のポジションにあるとしているのだ。
どういうことかといえば、「価格」の軸はそのままに、「価値」の軸の意味合いが変わっているのだ。ユニクロの価値といえば、第一に「品質」だ。さらに近年、ヒートテックに代表される新素材が実現した「機能性」も加わった。それに、ジル・サンダーのデザインへの参画に象徴されるように「ファッション性」までが加わったのである。
価格に対するファッション性の高さは、H&M、フォエバー21などの海外ファストファッションの特徴である。しかし、ファストと称される通り、1シーズン使い捨て的な品質であることは否めない。ユニクロが品質や機能性だけでなく、ファッション性までを価値の軸に取り込んだということは、国内に押し寄せる海外ファストファッション勢をものともせず、さらなる一人勝ちを続ける意欲を示しているといえる。国内だけではない。今年、一層注力する方針を明確にした海外展開においても無敵のスーパーバリュー戦略で勝っていく自信を示しているのだ。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。