微妙なボケ味とビビッドなカラーバランスの写真が仕上がる「トイカメラ」。ロシア製のLOMO、中国製のHOLGAなどがその代表格だ。そして今、その流行はデジカメにも波及し、トイカメラのデジカメ版「トイデジ」が若者に大人気だという。
<若い世代に人気急上昇!“トイデジ”ってなんだ?>
http://news.walkerplus.com/2009/1022/10/
東京ウォーカーの紹介によれば、Vivitar社の「Vivicam5050」(1万4800円)が人気の火付け役だという。上記リンク先には撮影画像も掲載されているが、ビビッドな色調のものなど仕上がりは確かにトイカメラそのものである。高校時代写真部で、カメラオタクでもある筆者にとってはデジカメ化してしまうより、プリントされるまでどんな仕上がりになるか分らないドキドキ感もあった方がよいのではと思う。しかし、その場で見られるデジカメ版の方が手軽で、しかもフィルムなど光材がかからない分経済的でもある。一部に熱狂的なファンがいたトイカメラの裾野が一気に広がったのはやはりデジタル化のおかげであろう。
そもそも、トイカメラやトイデジがなぜ、流行るのか。それは、昨今のデジカメ技術の進化に対するアンチテーゼに他ならない。
最近のデジカメ、特にコンパクトデジカメはすごい。例えば、ソニーのCyber-shot。売り物は高度な「顔検出機能」である。人間の顔を確実に検出してそこにピントを合わせる。複数の人間がいても、各々の顔をしっかりととらえる。また、大人と子供の顔を判別して、子供の顔を優先的に写りをよくしたり、優先したい人の顔を記憶させて、そちらにピントを合わせたりすることもできるのだ。シャッターは「笑顔検出機能」で、人物が笑った時に自動で切れる。まさにカメラにお任せ。
付属品のParty-shotを組み合わせれば、パーティーの時や家族団らんの時などにCyber-shotを乗せてテーブルなどに置いておけば、あとはカメラが勝手に室内の人物を探して、そこにいる人々の自然な表情を自動撮影するのである。まさに、カメラマン・人間いらずである。
そうしたデジカメの自動化の進化は、「写すこと」ではなく、「映ること」へと楽しみ方そのものを変質させてしまっている。一方、「写す」ことを楽しみたい層が「一眼デジカメ」へと走り、それが女性にも波及して「カメラ女子」というセグメントを形成し始めているのも事実である。
では、一眼デジカメで写すことを楽しむことと、トイデジを楽しむことは同じ意味かといえば、その本質は大きく異なる。
デジカメの価値構造を考えてみよう。デジカメの中核的価値は「キレイにデジタルで画像が残せる」ことである。それを実現する実体的価値は「ボディーの薄さ・コンパクトさ」、または「光学レンズの性能」などだ。さらに中核的価値とは直接関係しないが、あれば魅力を高める付随機能が「そのままBlogやSNSに画像をアップできる」とか、「プリント機能が付いている」といったものだ。
プロダクト・ライフサイクルで考えれば、製品の市場が成熟化するに従って、製品を構成する価値の要素が、「中核」から次第に「実体」「付随機能」へとどんどん本質的でない部分でしか差別化ができなくなってくるのが常である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。