ライオンが台所洗剤の新製品を発売した。その意図を考察してみよう。
統計データと一消費者として店頭を観察した感覚が異なる場合は多々あることだ。<国内企業別台所用洗剤シェア2008年:花王 34.9%・P&G 31.7%・ライオン 20.5%(日本経済新聞社)。もっとも、1年前のデータではあるが、スーパーの店頭、台所用洗剤の棚にライオンの製品がほとんど見つからないのである。
そんな状況を打破しようとして上市されたと思われるのが、“手肌にやさしい洗浄成分”を増量したという「チャーミーマイルド」である。
<ライオン、手肌と同じ弱酸性の台所用洗剤「チャーミーマイルド」を改良発売>(2009年12月07日マイライフ手帳@ニュース)
http://news.livedoor.com/article/detail/4491189/
同社独自の調査から導かれた戦略は明確だ。<主婦の55%が手あれを感じており、特に冬場に実感する人が多くいるという。また、台所用洗剤を購入する際に重視する項目は、「洗浄力」に次いで「手にやさしい」ことが挙げられた>ということだ。
もちろん、洗剤としての基本機能は充実している。<油汚れをしっかり落とす洗浄力>、O157 などの対策としての<スポンジの除菌>、<まな板などについた肉や魚の気になるニオイを消臭>という機能も盛り込まれている。さらに<オレンジピュアオイル(天然エッセンシャルオイル)配合で、フレッシュなオレンジの香り>である。(以上、同社Webサイトより)
「チャーミーマイルド」をモデルに台所用洗剤の価値構造を分解して考えてみよう。台所用洗剤で実現したい「中核」となる便益は「食器の汚れを落とせる」である。しかし、今日の食生活は油もののメニューも多く、「油汚れをしっかり落とす」ことも欠かせない。
では、その一連の「洗浄」をどのように実現するかという「実体」を考えてみると、ライオンが狙っている「手にやさしい」が挙げられる。さらに、中核たる便益に影響はないものの、製品の魅力を高める「付随機能」が、洗浄ではないが「スポンジ除菌」「まな板消臭」「オレンジの香り」となる。
では、ライバル各社の先行商品を見てみよう。まずはP&Gの「ジョイ」だ。<洗い始めから汚れを素早く落とすので、お皿洗いにかかる時間を短縮できます!!>と訴求している。さらに<毎日簡単に、まな板・スポンジ・ふきんまで除菌できます!!>としている。(以上、同社Webサイトより)香りはシトラスミント、フレッシュオレンジ、グレープフルーツの3種がある。
中核の汚れ落とし、付随機能の除菌、香りはライオンと同様だ。実体の部分が「手にやさしい」ではなく、「素早い汚れ落としによる時間短縮」であるのが特徴だといえるだろう。
次は花王の「キュキュット」。<キュキュットは、すすいだ瞬間、指先でキュッと汚れ落ちを実感できる食器用洗剤です>という。(以上、同社Webサイトより)汚れ落ちの良さが実感できるということが「実体」である。香りはP&G同様3種ある。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。