人事部門を含め、人材育成を考える際にはこの三点をセットで考えねばなりません。
アメリカのリーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社の調査によれば、経営幹部としてリーダーシップをうまく発揮できるようになった人たちに「どのような出来事が役立ったか」について聞くと、“70%が経験、20%が薫陶、10%が研修”という結果であったそうです。これを見て、「やっぱり経験が一番大事だ。研修など大した意味がないんだ。」と結論づけるのは全く論理的でありません。経験というのは「仕事」、薫陶というのは「上司の言葉」。これらに「研修」による学びと気づきを加えることで今の実力・能力を持つことができた、と回答をした訳です。
ここから分ることを丁寧に述べれば、第一に、仕事は利益や成果を上げるためだけでなく、個人の成長に役立つ、人材育成につながるためにも存在しているということ。難局を乗り越えたり、場数を踏んだりすることで、出来るようになったり自信がついたりすることは、誰しも身をもって知っていることですが、仕事を経験学習と位置づけ、各人の成長を念頭に置いてこれを与えなければならないということです。
第二に、上司の言葉が大切であるということ。薫陶は、辞書に「人徳・品位などで人を感化し、良い方に導くこと。」とありますが、部下が仕事を通して育つためには、上司が仕事やそれを通して経験していることの意味を、あるいは自らの思想や信念を伝えなければなりません。単に「経験させていればいい」「経験していれば勝手に成長する」という考えは甘く、また薫陶を与えるに値するものを身につけねばならないということです。
第三に、研修という日常を離れて「学び」「気づく」機会も重要であるということ。一年で2,000時間働くとして20時間研修を受けたとしても1%ですから、自らの力量に影響を与えた割合として研修が10%と回答しているのは、かなり大きいと感じます。充実した経験と、良き上司の言葉があったとしても、やはりそれを体系的に定着させるあるいは別の次元や視点や知識を獲得する機会は重要なのだということです。
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これら“経験、薫陶、研修”を、それぞれ無関係なバラバラのものと捉えてはいけません。選択肢があると私たちはつい「何が一番大事か」という思考や議論になりがちで、そのように考えると、経験不足のまま薫陶や研修を受けているだけで成長する訳はありませんから「経験が一番大事」となるのは当たり前の話です。その結果、それらを軽視するようになっている会社は多いのですが、これらは比較して順位づけられるものではなく三点セットです。モレなく全部が大事で、かつ各々が関連づけられると考えるべきでしょう。
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2010.01.26
2010.03.31
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。