冬の定番スイーツ「たい焼き」にホットな戦いが巻き起こっている。いや、ホットでは生温い。アツアツの激戦だ。
東京の「三大たい焼き名店」といえば、「水天宮・柳屋」「四ッ谷・わかば」「麻布十番・浪花屋総本店」。筆者は柳屋派であり、店頭で焼き上げる手際に見とれながらわくわくして行列してしまうのである。焼き方は今日一般的になっている複数個の型に生地を流し込んで焼く量産型(養殖物ともいう)ではなく、1匹ずつ個別の型で焼き上げるスタイル(天然物という)で、その手さばきは見ていて飽きない。
そんなたい焼き業界には新規参入が相次いでいるようだ。背景にあるのは「不況」。売上げが伸びない他業種を経営する店舗の他、元会社員も契約を切られた、早期退職に踏み切らざるを得なかったなどの背景で新規参入をしているという。
昨年6月、景気の低迷から全く光明が見えなかった時期、北海道毎日新聞が次のような記事を掲載していた。
<たい焼き専門店:増殖!! 不況だから… 少資金で開業、調理法も簡単>(毎日新聞 2009年6月6日 地方版 http://tinyurl.com/ycrxwru )
飲食業は一般に参入障壁が低いのだが、特にたい焼き屋の開業は手軽に始められるようだ。その理由は<たい焼き店は3坪程度の狭い店舗でも開業可能。初期投資もフランチャイズ加盟料や設備費、テナント料など計500万円前後と、他業種に比べ開業資金が安く、調理方法も早ければ1日で習得できる>からだという。
飲食業は参入障壁が低いが、生き残りは難しい。まして、たい焼きのようなコモデティーは冒頭のような名店でなければ、消費者が目にしても「買う理由」にはならない。そこで、たい焼きも生き残りのための差別化戦争が展開されることになる。
北海道毎日新聞の記事にあるフランチャイズとして紹介されていたのが、福岡県大牟田市に本部のある「尾長屋」。白いたい焼きの元祖を名乗る。同市には同じく元祖白いたい焼きを名乗る「藤家」もあり、フランチャイズ獲得を競っている。差別化ポイントは、モチモチとした食感が楽しめる白い生地。それが差別化ポイントである。
白があれば黒もある。代官山「黒鯛」。通常タイプのプレーンや、抹茶を使った暗緑色の皮もあるが、備長炭と黒ゴマを使用した黒い皮のたい焼きがシンボル。店の看板やたい焼きを入れてくれるパッケージも黒で統一されており、かなりデザインにこだわりブランディングを図っていることが伺える。
デザインやブランディングにはかなりのコストを要する。しかし、そこまでできないものの、差別化を図ろうとすれば通常のあんこを変わり種の具材に変える勝負になる。もともと、たい焼き業界では1990年代後半から2000年頃から変わり種たい焼きが増え始めていた。しかし、安易な変わり種は「ゲテモノ」となって、消費者にすぐに飽きられる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。