ターゲティングはマーケティングの基本。その重要性をもう一度考えてみよう。
販売促進や営業戦略に関するプランニングやコンサルティングにおいて、なかなか厄介なクライアントからの反論は「そんなにターゲットを絞ったら売上げが上がらなくなるじゃないか!」というものだ。一笑に付せるひとは判っている人。判らない人にはなかなか理解できないのだ。「自分がターゲット(層)、または見込み客(層)と思っていても、それが顧客化できるとは限らない」ということを。
厳しい時代ほど、勝てる領域、取れるターゲットを絞る。その上で、さらに「買ってもらえる理由」を明確にし、「利益を創出するポイント」を構築することが欠かせないのである。
1月29日の日経MJに興味深い事例が2つ載っていた。
一つはカラオケ業界の生き残り策だ。『「2次会はカラオケ」に陰り』とある。<景気低迷でサラリーマンの飲み会需要が落ち込んでいる中、ターゲットを絞ることで効果的に集客したい考えだ>と、各社の取り組みを紹介している。
中でも秀逸なのがシダックスである。<毎週水曜日の女性客に限って部屋料金を2時間まで無料にする「レディースデー」を始めた>という。小遣いが減り、飲み会も減って、ましてや2次会などとんでもないという、世のサラリーマンを頼ることなく、曜日を搾り、さらに女性ターゲットに絞って集中集客をしているのだ。結果は<来店客約10%増、女性に限定すると約16%増>だという。
しかし、「部屋料金無料」なのだ。収益はどうやって上げるのか。<女性客がルーム料金を気にしないで、飲食物を通常より多めに注文している>という。フードやドリンクメニューが豊富なシダックスならではの戦い方だ。
中小企業も頑張っている。『1缶1575円のコンビーフ』という記事。百貨店や大手メーカーのPB生産を手がけてきた、RCフードパーク社。初の自社ブランド商品は「黒毛和牛コンビーフ」95グラム1,575円也。同社は<デフレ傾向が強まる食品市場だが、缶詰分野では高級品を求める消費者も少なくないことに着目した>という。高級コンビーフは食べてみれば判るのだが、一般普及品とまるで味が違う。あるステーキ店の隠れメニューに「コンビーフとキャベツの炒め」があるのだが、その店はいいコンビーフが手に入った時以外、決して作ってはくれない。恐らくRCフードパーク社のコンビーフならOKだろう。
商品は<肉の加工時に機械を使わず「手ほぐし」をするのが特徴>だという。そして、<国内の食品メーカーで、コンビーフをこうして加工できる企業は限られているという>と記事にある。
自社即時の技術を活かし、製品の「加工度」を高めて高価値にし、それを求める顧客に販売する。見事に筋の通ったターゲットの絞り方と利益創出策だ。
日本市場は人口減少によって確実に縮小する。そこに追い打ちをかけた不況で、限られたパイを取り合うために、出口なき低価格戦争が始まった。普通のやり方では、血みどろのレッドオーシャンから抜け出ることはできない。かといって、誰も競争相手のいないブルーオーシャンなど、簡単に見つかるものでもない。だとしたら、自分だけがほんの少しでもいいから、喉を潤せるだけの澄んだ水をたたえた「小さな池」を探そう。そのためには、「大勢の顧客を相手に、大きく儲ける」という考え方を捨てることから始めなくてはならない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。