皆さんは、1日に何回「ありがとう」って言われますか?
介護・福祉分野の専門人材を派遣・紹介している株式会社ニッソーネットが、面白い調査結果を発表しています。介護職等で働く人に対して、「1日に何回、ありがとうと言われていますか?」という質問をし、平均が15.6回であったとのこと。同社の昨年の調査で、「介護の仕事をしていて一番うれしかった一言は?」という問いに対して、「ありがとう」が60%超と最も多かったことから、今年はこの質問にしたそうですが、例えば自分と比較して考えてみてもこれは凄い多さです。
1日に15回も言われるということは、30分に1回くらい言われている勘定になりますが、ほかの仕事ではちょっと有り得ない多さではないでしょうか。いわゆるサービス業の人達も、さすがにそこまでは言われてないんじゃないかと思います。飲食店で計算を済ませて店を出るときに、何の意図もなく口にされる「アリガトッ」「おおきに」みたいな一言を含めるともっと多いのかもしれませんが、そういうのとは意味が違うでしょう。
普通はこれだけの回数を言われますとだんだんと慣れてきて、嬉しくも何とも感じなくなったり、聞こえなくなったりしそうなものですが、そうではなくて、その言葉が一番嬉しいと感じるということですから、「ありがとう」と言う方も、やはりそれなりのタイミングで心のこもった言い方をしているのだと想像します。あいづちのような、挨拶の代わりのような「ありがとう」ではなくて、ほんとに感謝する気持ちを伝える「ありがとう」なのだと思います。
ニッソーネットでは、『介護の仕事は過酷だと言われますが、この「ありがとう」という言葉に励まされ、やりがいをもって介護の仕事に就いているスタッフの姿がうかがえます。』と結んでいます。これを異なる言い方にするなら、「ありがとう」なしでは成り立たない仕事・職場ということなのかもしれません。
介護現場では、このご時勢でも人手不足に悩んでいて、それは仕事と処遇のアンバランスが主たる原因でしょうが、その解消は今のことろお客様の「ありがとう」しかないという状態です。「ありがとう、を何回言われるか」という小さな問いから、介護現場とその人材確保という大きな社会問題を示唆するいい調査だと思います。
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さらに、「ありがとう」という言葉のパワーを表わしているようにも感じます。処遇の仕方や組織の沈滞・閉塞に悩み、仕組みやマネジメントの変革を企図するのも良いでしょうが、その前にトップや幹部が率先して「ありがとう」を口にし、そのような気持ちを組織に充満させていくだけでも働く人の気持ちは変わってくるものであると感じるわけです。「サンクスカード」のことではありません。メンバーにカードを渡す仕組みを押し付けるのではなくて、リーダーが「ありがとう」を口にすることが実に大切なことではないかと思うわけです。
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2010.03.20
2015.12.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。