うっかり人前で食べると「あんた、カップ焼きそばの食べ方知らないの?」と奇異な目で見られてしまう、「ペヤング スープやきそば」。湯切りをせずに、ソースのようなスープを入れてそのままいただく。なぜ、こんな不思議な商品が作られたのか・・・。
コンビニのカップ麺・カップ焼きそばコーナーに多数積み上げられている「ペヤング スープやきそば」がちょっとした話題になっている。大盛りサイズが主流のカップ焼きそばの中ではちょっと小ぶりなパッケージは、商品の仕上がりイメージ写真が印刷されたシュリンクパックに包まれている。パックを破ると、ペヤング伝統の白くて四角いいつもの容器が現れる。湯を注いで3分後。うっかり湯を捨てそうになるが、踏みとどまって液体スープを入れる。焼きそばというよりは、日清のチキンラーメンのような味わいである。
カップ麺というカテゴリ以上にB級グルメっぽい感じがする「スープ焼きそば」だが、調べてみると那須塩原にルーツがあるようだ。ラーメンの麺と豚肉、キャベツをソースで焼き上げ、醤油ベースのスープに入れるという。全国では他にも「焼きそばの街」ともいわれる青森県黒石市に「つゆ焼きそば」を作る店があるという。
ペヤングがご当地B級グルメをペヤングが再現したとも解釈できるが、コトはそんなに単純ではないようにも思える。
屋台の焼きそばをイメージしたという四角い容器の「ペヤングソースやきそば」が登場したのは1975年のこと。当初関東以北を販路としていたが、商圏内では抜群の知名度を誇っているロングセラー商品である。しかし、そのメーカー名を知る人はあまり多くないだろう。「まるか食品」という。群馬県伊勢崎市にある、資本金4000万円、従業員100名の企業である。
「ペヤング」ブランドのほかに社名の「MARUKA」ブランドがあり、両ブランドとも焼きそば以外にカップラーメンやうどんなどを展開している。しかし、ペヤングの焼きそば以外やMARUKAブランドの商品を見る機会はあまりない。スーパーの特売品などとして見かける程度だろう。つまり、チャネルが押さえられていないのだ。コンビニの棚に並ぶ同社の商品は、「ペヤングソースやきそば」の容量サイズバリエーションがほとんどで、まれに「ペヤング のり塩ポテトやきそば」や「MARUKAカレーやきそば」が見られるくらいである。
コンビニの棚をめぐる戦い。競合(Competitor)としては、カップラーメンであれば、「カップヌードル」の日清や、「スーパーカップ」のエースコック。カップうどんなら「マルちゃん赤いきつね」の東洋水産など強者が居並ぶ。まるか食品のつけいる隙はあまりない。
顧客(Customer)のニーズを考えれば、メーカーにとっての第一の顧客はチャネルであるが、店舗が狭小なコンビニのニーズは、とにかく商品回転率が高いことだ。つまり、売れ筋しか置きたくないから、カテゴリにおいて上位のシェアを持った商品でなければ置いてもらえないのが実情である。エンドユーザー(消費者)のニーズはどうか。ダウンタウンの浜ちゃんこと、浜田雅功に代表されるようなペヤングファンも、始終焼きそばばかりを食べていたくはない。
となると、自社(Company)としては、コンビニには焼きそばブランドを活かし、定評あるカップ焼きそばのバリエーションとして、消費者には変わり種B級グルメ商品として訴求できる「ペヤング スープやきそば」が開発されたのだと考えられる。
製品は作られて、チャネルの棚に並んで、消費者が手にとって購入して、初めて商品となる。そこには、自社の強みを活かして棚を確保して、そこで消費者に魅力をアピールするための工夫が込められているのだ。そんなことを考えてみると、ちょっとした変わり種商品に見えるものも、少し見方が変わってくるのではないだろうか。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。