競争相手の誰もいない「ブルーオーシャン」は誰しも憧れるところだ。しかし、世の中そんなに甘くない。血みどろの戦いが繰り広げられる「レッドオーシャン」でどう生き残りを図るかが、日々のテーマとなる。そして、出口の見えない血みどろの戦いを繰り広げている業界といえば、まずは「牛丼業界」が思い浮かぶ人も多いだろう。
かつてのリーダー企業であった「吉野家」を店舗数で抜いた「すき家」が仕掛けた激安戦争。「松屋」も参戦し、現在、吉野家が売り上げ、客数、客単価のどれをとってもマイナスという一人負け状態に突入している。それでも戦いは終わらない。もはや収益ぎりぎりの「牛丼」は値下げができない。戦いの場は「定食」に移行しつつある。
吉野家が2月22日から始めたメニュー、「牛なべ定食」。<牛肉、タマネギ、お豆腐を、すきやき風味に仕上げ、定食スタイルでお召し上がりいただきます。コクと旨みが際立つ、おすすめの一品です>(同社ニュースリリース)という自信の逸品である。ご飯・玉子・お新香付きで500円。「定食なのに味噌汁が付いてない!」という声もあるが、コストパフォーマンスの良さをアピールしたいワンコイン価格である。
そんな定食戦線に松屋はまずは期間限定値引きで様子見の参戦だ。3 月11 日から1週間は豚生姜焼定食 580 円が480 円。翌週は豚焼肉定食 550 円が450 円と100円引きでワンコインレイン以下に設定した。ライス・生野菜・味噌汁付き。プラス200円で肉がダブルになるというガッツリ派の取り込みも狙っている。
ガッツリならすき家も負けてはいない。こちらは新メニューとして3月17日から「豚(とん)しょうが焼き定食」を発売する。<一般的な定食に比べ倍近い肉の量を使っている>(同社ニュースリリース)のが特徴だという。レタスとキャベツ・ポテトサラダの付け合わせ、油揚げの味噌汁が付いて680円。松屋のキャンペーン価格とぴったり同じなので、通常価格なら同等のボリュームで100円安い計算だ。
定食戦争はどうなっていくのか。肉が牛ではあるが、吉野家はこうなるとコストパフォーマンス的に見劣りするのが否めない。だとすれば、一部では牛丼よりも美味と評価の高い豚丼の豚を使って、豚焼き肉系のボリュームメニューを投入せざるを得ないのではないか。肉の量を増やし、味噌汁を付ける。収益的にそれに耐えきれるかが問題だ。
すき家は280円、トッピングをしても380円にしかならない牛丼に比べ、高単価メニューである定食の販促に全力を尽くすだろう。だとすれば、松屋は今回のキャンペーン成果を検証した後に、全く同等にしないまでも、牛丼の時と同様に量や価格の追随をせざるを得ないに違いない。
牛丼から定食に戦場が移ることは、実はさらに恐ろしいことを意味している。牛丼戦争は最後に誰が生き残るかという様相だったが、こと、定食となると競合として巻き込まれる外食企業が数多く出てくるのだ。いわばとばっちりである。
落としどころはどの当たりになるかといえば、恐らく500円前後で量的にもまずまず満足いくレベルになるのではないか。昨今、ランチの予算では300円派と500円派が2大勢力である。300円だと、牛丼かコンビニでカップ麺とおにぎり。500円だと弁当か格安な定食だ。その500円派を狙って都内を中心に展開しているラーメンチェーンの「天下一」は、通常だと麺類に半チャーハンを付けるところを、麺類、チャーハン共に半々のセットで500円という価格の格安メニューを設定している。
500円でそこそこ満足。プラス100~200円でガッツリ満足。そんな価格が業界標準になったらどうなるか。調達力に優れ、規模の経済と経験効果で固定費・変動費率の低減が図れる企業以外は生き残れなくなってしまうのだ。
「さて、生き残るのは誰だ?」という風情で見物していた牛丼戦争は、いよいよ我々のランチの風景を書き換えてしまうほどのデフレの嵐となりつつあるのである。
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。