国際会計基準審議会(IASB)はIAS第19号の改訂案を公表しました。公開草案で提案されている会計処理により、退職給付会計導入以来の大きなインパクトを受けることになりそうです。
本サイトへの投稿記事は
aegifの国際会計基準専門ブログ IFRS of the day(http://aegif.typepad.jp/ifrs/)より引用しております。
2010年4月に国際会計基準審議会(IASB)からIAS第19号の公開草案が発表されました。
今回の改訂は主に確定給付型の退職給付を対象としています。
改訂事項で一番大きな変化は
退職給付にかかる資産と債務の変動がすべて当期に認識することとなり
コリドー・アプローチや遅延認識が廃止された、という点です。
コリドー・アプローチというのは退職給付にかかる数理計算上の差異が
一定の額(年金資産か退職給付債務の額が大きい方の10%)を
コリドー(回廊)として、コリドーの範囲内の変動は認識しないというものです。
日本基準にはコリドー・アプローチがありませんが、
重要性基準という考え方を採用しているので、
国際会計基準と同じように一定の数理計算上の差異を認識しないことになります。
どちらの基準においても一定の枠を超えた数理計算上の差異を
一定の年数で償却するなどの遅延認識が行なわれてきました。
公開草案ではこのようなコリドーや遅延認識を廃止することが提案されていますが、
すべての変動を当期損益として認識するわけではありません。
退職給付にかかる変動を今までとは違った方法で分解し、別々に認識します。
公開草案では
・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益
・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益
・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益
基本的に、
現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は
当期損益として認識することになります。
その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異は
すべてその他の包括利益になります。
一般的に、この新しい方法を適用すると
退職給付会計で当期損益に与える影響は小さくなり、
その他の包括利益として認識する金額は大きく、さらに毎期大きく変動する可能性があります。
そして、企業の純資産も大きく変動するリスクにさらされます。
このような会計処理は国際会計基準より前にイギリスですでに導入されていたそうです。
イギリスでもこの処理の導入には企業からの反発が大きかったものの、
導入後はマネジメントが退職給付や年金の運用状況をそれまで以上に
真剣に議論するようになったそうです。
国際会計基準では投資家保護が目的であり、
資産や負債の期末時点での価値が財務諸表に表示されるように
個々の会計基準を定めています。
企業年金も例外ではなく、
たとえ年金資産の運用悪化が一時的な市場の変動であっても、
割引率の変動が経営上回避できないものであっても、
その状況を財務諸表上に表示されなければならないと考えるのです。
国際会計基準はこの目的のためにこれからもまだまだ変わっていくことになります。
しっかりフォローしていくことが重要です。
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