ある業界でシェアナンバー1を誇る「リーダー」ではない。さりとて、リーダーに挑戦する「チャレンジャー」となる力もない。現実的にはそんな企業は数多い。残された道はリーダーの落ち穂拾いをする「フォロアー」に甘んじるか、「独自の生存領域」を確保して「ニッチャー」の地位を確立するかだ。就職サイトの「エン・ジャパン」はニッチャーとなる大きな賭に出た。
「ニッチ」という言葉。昨今はよく使われるようになっているが、原義は「飾り物などを置く壁面のくぼみ」であり、また、「(人・物に)最適の地位(場所・仕事)」だ。
「最適の地位を確保する」方法はただ一つ。のか。「顧客が求める競合には真似のできないその企業独自の提供価値」である「バリュープロポジション(Value Proposition)」を明確にすることに他ならない。
その意味からすると、エン・ジャパンのこの度の戦略転換は極めて正しい判断だといえるだろう。
<就職情報サイト『[en]学生の就職情報2012』は中堅・中小・ベンチャー企業に特化!>(5月10日同社ニュースリリース)
http://corp.en-japan.com/newsrelease/detail.php?id=589
同日の日本経済新聞13面にも「学生向け就職サイト 中小掲載に特化 競合とすみ分け」との記事が掲載されている。
いわゆる就職氷河期といわれた時代以上に厳しい環境にある今日、2010年3月大学卒業予定者の就職内定率は80%に過ぎないという。一方、<学生の大手企業志向により、採用意欲の高い中小企業が採用予定人数を確保できていない状況にあります>(同)という状況も顕著であり、<中小企業の2010年度4月入社の採用活動状況は、「当初の予定より質・人数ともに下回っている」が21.5%、「当初の予定どおりの質を確保できたが、人数は予定を下回っている」が12.2%となっており、合わせて約34%の企業が新卒採用に不足を感じている>(同)と、大きなアンマッチが発生している。エン・ジャパンはそこに目を付けたのだ。
同社がその戦略実行に動いたわけは、日経の記事に詳しい。「企業は新卒採用コストを抑制するため求人情報サイトを選別しており、後発組であるエン・ジャパンの新卒向け就職情報サイトの年間売上げはピーク時の3分の1以下の10億円程度に落ち込んでいる」とある。
同社の昨年末の全社売上高は約102億円なので、1割未満の貢献しかできていないことになる。このままでは事業としてのうまみはない。そこで、<力のある中堅・中小・ベンチャー企業(資本金10億円未満、又は社員数3000名未満)のみの求人情報を掲載します>(同)というニッチ戦略に出たわけだ。
とはいえ、老婆心ながら少々心配な面もある。
ニッチ戦略が成立するのは、リーダー企業が狙うには、その特定市場が規模や収益性から見て効率的ではないという前提条件がある。
「中堅企業」とは、概ね「資本金 1億円以上10億円未満」という規模感で語られるが、実は「中小企業基本法」に明確な定義はない。「中小企業」とは、業種によって異なるが、中小企業基本法第二条には「中小企業者の範囲」として「 資本金3億円以下ならびに常時使用従業員数300人以下」とある。そして、日本企業421万社のうち99.7%を占める(中小企業庁資料)。
つまり、規模的に魅力がないとは言い難い。むしろ、エン・ジャパン社の634人の社員数でどこまで対応が可能かということだ。
もう一つはニッチ戦略が崩れるパターンは、との特定市場の魅力が増してリーダー企業が進出してくることだ。販売力に勝るリーダー企業が一気に市場を席巻してしまうのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。