「節約疲れ」。そんなキーワードが各メディアで目につくようになってきた。節約志向が高まっていた消費者が、あまりに長引く不景気で、ついに我慢に疲れて今年に入ってから消費を始めたという説だ。デフレ不況下の勝ち組とされるユニクロの3月の売上高が7年ぶりの大幅なマイナスに転落したのもその影響であるともいわれている。
「節約疲れ」は英語では「pent-up demand(抑圧需要)」というようだが、その需要を取り込もうと各社が動き始めた。そのいくつかに注目してみたい。
<節約疲れの女性に「ちょい高め」パン コンビニ各社>(4月4日asahi.com)
http://www.asahi.com/business/update/0403/TKY201004030001.html
<従来より数十円から100円高いパンやデザートの販売に力を入れ始めた。「少し高くても、おいしいものを食べたい」という若い女性がターゲットだ>(同)という。また、中堅コンビニ、スリーエフの中居勝利社長は<「消費者の低価格志向を先取りして小売り各社は値下げしてきたが、今年度上期でその競争も止まるだろう」>との予想で、高価格帯の充実を検討中と記事中でコメントしている。
ポイントは、「従来より数十円から100円高い」というところだろう。抑圧された需要の向かう先は「贅沢」ではないのだ。ほんのちょっと。プラスアルファの消費。そこに商機があるのだろう。だとすると、そこは各社のプライシングの腕の見せ所だ。
消費者が「どれくらいまでなら払ってもいい」と考える価格を元にプライシングする「カスタマーバリュー(需要)志向価格設定」のなかでも「知覚価値価格設定」というものがある。市場調査などによって、消費者が受け入れやすい「売れる価格」を探り出すのである。米国ブランドの「コーチ」が、1990年代半ばに日本市場での巻き返しを行った例が有名だ。「手の届く高級品」というコンセプトに従って製品使用を改訂。従来の価格帯から30~40%ダウンさせて、消費者を取り込んだのである。
「節約疲れ」「pent-up demand」を取り込むには、前述の例とは逆に、今度は少し高めの価格設定で、商品の質をちょっとアップさせるのがポイントだ。その例として、モスバーガーの展開を見てみよう。
<“ひとときの贅沢”需要にお応えして「ぜいたくモスバーガー」「ぜいたくモスチーズバーガー」580円と640円で期間限定発売!!>(同社ニュースリリース)
http://www.mos.co.jp/company/pr_pdf/pr_100426_1.pdf
同社はリリースでも<まだまだ厳しい日本の経済環境ですが、一方で“節約疲れ”ともいわれるようになり、我慢し続けるだけでなく本当にいいものは購買したい、というニーズも高まりつつあります>と、「pent-up demand」の取り込みを明言している。外食産業でもいきなり高級レストランに需要が向かうことはない。「ちょっとした贅沢」というレベルでは一部でもブーム化している高級バーガー程度がちょうどいいところだ。
そして、<ご注文いただいてから手作りするモスならではの、ハンバーガーひとつでちょっとした贅沢気分が味わえる「ぜいたくモスバーガー」をお届けします>としている。これは、自社のバリュープロポジション(Value Proposition=競合に真似できない自社ならではの提供価値)を活かした非常にうまい手だといえる。マクドナルドも内装を豪華にした新型店舗で100円メニューを廃止して、メニューも最大50円アップするなどの客単価アップに向けて舵を切っているが、チャレンジャーのモスバーガーは、<ハンバーガー類の定番商品を軸として商品ボリュームごとに、「ボリュームゾーン(上位価格帯)」、「レギュラーゾーン(中位価格帯)」、「ライトゾーン(下位価格帯)」の3つの価格帯で幅広く商品群を設ける>という戦略をとっており、「既存の最高価格品と比べても80円~140円高い」とより大胆な展開をしている。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。