納豆が伸びるといっても、糸を引いているわけでも、粘ついているのでもない。ミツカンの納豆事業のシェアが伸びているというのだ。そのヒミツを探ってみよう。
<納豆販売戦線に異状あり ミツカンがタカノ追い上げ>(5月18日livedoorニュース/J-CASTニュース)
http://news.livedoor.com/article/detail/4775354/
納豆市場の業界内シェアはここ5年で様変わりしている。2005年時点では、タカノフーズ25.6%、ミツカングループ10.8%という状況であった(富士経済グループ調べ)。但し、この業界は、業界第3位以下は全てシェアが1桁台であり、10位以下の合計が31.4%を占めている。
業界内の動きでは、同05年に7%のシェアを持っていた「くめ・クオリティ・プロダクツ」が前出の記事にもあるように、09年9月に倒産。ミツカンに吸収される。現在では<ミツカンはくめ納豆の事業を吸収後、業界シェアを5%ほど上げ、現在は約20%。最大手、タカノフーズの約30%を急激に追い上げている>(同)という状態だ。
05年に比べ、くめの吸収前のミツカンも、タカノフーズもシェアが向上しているのは、記事にある<原料の大豆価格が比較的高止まりしており、地方に乱立している小規模業者の廃業も続いている>という記述と符合する。つまり、中小・零細がひしめき合っていた業界に寡占化の波が訪れたのである。
業界2強の各々のシェアとポジションはどのような意味を持つのだろうか。
業界トップが約30%というシェアの場合、「クープマンの目標値」にある「市場影響シェア(26.1%)」に近い。市場に影響をもたらすシェアを獲得しており、一歩抜け出した状態ということになる。2位以下がこのシェアであれば、トップを狙えるポジションにあると解釈できるが、トップがこのシェアであると逆転される可能性あるという意味になる。ミツカンの猛追は、一気にトップを奪う狙いがあると解釈できる。
納豆市場でトップのポジションを虎視眈々と狙うミツカンの強さのヒミツは、同社の事業の歴史を振り返るとよくわかる。
ミツカンのメイン事業は当然ながら納豆ではない。「酢」だ。その事業のもう一つの柱とすべく、納豆事業に1997年に参入している。実は、その前に「豆腐事業」に参入を検討した時期があると、筆者は業界関係者から聞いたことがある。しかし、酢における醸造、発酵を管理する技術と、豆腐作りの技術にはシナジーが働かず断念したと聞いた。そこから、発酵技術を用いる納豆事業に進出したとのことである。
タカノフーズは1932年(昭和7年)に豆腐作りで創業し、1942年に納豆の生産・販売を始めたと社史にあるが、それは大豆という「原料」を用いた「生産シナジー」を活かしたと解釈できる。一方のミツカンは、豆腐を断念し、「発酵」という技術を用いた「生産シナジー」を発揮する道を選んだ。同じ納豆にたどり着いた両社の原点は大きく異なるのである。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。