未来の退職給付会計のアプローチ:IAS第19号公開草案

2010.05.24

経営・マネジメント

未来の退職給付会計のアプローチ:IAS第19号公開草案

野口 由美子

国際会計基準の退職給付会計は新しいアプローチが提案されています。日本の会計基準とは違った考え方が背景にあるのです。

2010年4月に国際会計基準審議会(IASB)はIAS第19号の公開草案を公表しました。

今回の改訂では確定給付型の退職給付に関する規定の改訂が中心となっています。
もっとも注目されている改訂点は数理計算上の差異などの遅延認識が廃止されたことです。
(この改定点について筆者が解説した記事も参考にしてください)
しかし、その他にも重要な改訂がなされており、退職給付会計の考え方が大きく変わります。

現行のIAS第19号では退職給付費用は
・勤務費用
・利息費用
・年金資産の期待収益
・数理計算上の差異の償却額
・過去勤務費用
などの総額でした。これは日本基準でも同じです。

一方、公開草案ではこれまで1つにまとめられていた退職給付費用を以下の構成要素に分けて表示することになります。

・雇用の構成要素(勤務費用)ーー当期損益
・財務の構成要素(財務費用)ーー当期損益
・再測定の構成要素(数理計算上の差異など)ーーその他の包括利益

基本的に、現行の退職給付会計で勤務費用や利息費用、年金資産の期待運用収益は当期損益として認識することになります。

その他の数理計算上の差異など利回りやその他の数理計算の仮定の変動によって生じる差異はすべてその他の包括利益で認識することになります。

そして、財務費用の計算はこれまでの計算手法と異なります。
財務費用には退職給付債務の割引計算に伴う利息費用と年金資産からの期待運用収益が含まれることになりますが、期待運用収益の計算にはこれまでの期待運用収益率は使いません。
退職給付債務の割引率と同じになります。

財務費用を生じさせる資産側と債務側のどちらからも同じ利率で計算するのが整合的と考えられるからです。

ちなみに日本基準では割引率の決定に国債の利回りを参照しますが、国際会計基準では優良社債の利回りに基づくことになります。国債の利回りは退職給付債務の額が過大になると考えられているため、採用することはできません。

このように国際会計基準では退職給付会計の考え方が変わってきています。退職給付会計は特別な計算手法を用いることもあり難しい分野ですが、どのような考え方になっているのか仕組みをしっかりおさえておくべきところです。

野口由美子

株式会社イージフ 
http://aegif.jp/

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