あなたのいまやっているその努力や精進は、将来に「グラン・ジュテ」(大きな跳躍)を呼び起こすのだろうか? 世の中には、努力が結果として報われる人もいればそうでない人もいる。「報われる人生」のためには何が重要なのか。
NHK教育テレビで『グラン・ジュテ~私が跳んだ日』という番組がある。さまざまな女性の職業人生を追っているヒューマン・ドキュメンタリーで私は観るたびにいろいろにエネルギーをもらっている。
『プロジェクトX』のように壮大なドラマ仕立てでなく、『情熱大陸』のように超有名人を扱っていない。どちらかといえば普通の人が職業人生を切り開いていく物語で、自分と等身大のスケールで観ることができる。だから余計に現実味を帯びたエネルギーをもらえる。
「ロールモデル不在」とそこかしこで言われる日本社会だが、こういった番組はそんな中で多くに視聴を勧めたいものだ。登場する彼女たちの生き様・働き様はロールモデルにじゅうぶんになりえる。特に中学生くらいからどんどんみせたらいいと思う(今の子どもたちは、想いにひたむきな生き方、志に向かう真剣な大人の姿をあまりに目にしていない)。
番組タイトル名のグラン・ジュテとは、「大きな跳躍」という意味だ(バレエの専門用語から取っているという)。毎回登場する主人公は、さまざまなきっかけや出来事によってその世界に入り、苦労や忍耐を重ねる。小さな成功に有頂天になるときもあるが、その後長く続く、ほんとうの試練にさらされて、次第に天狗鼻も削り落とされてゆく。その下積みのようなプロセスを番組はていねいに追っている。
その下積みの間の心理変化や、主人公のあきらめない心の持ちようこそが、この番組の一番の肝である。私もそこに強い関心を置く。
番組のタイトルどおり、番組の後半では、そうした苦境を乗り越え、主人公には晴れて「グラン・ジュテ」の瞬間が訪れる。そこから彼女たちは、仕事のステージががらりと変わり、成功へのキャリアストーリーが始まる。それはもう番組作り上の華のようなもので、また視聴者にとっては必ずあってほしいカタルシスのようなもので、「あぁ、よかった、よかった」となる。
―――しかし私たちは、この番組をあらかじめ「グラン・ジュテ」があることを
知っているからこそ安心して観ていられる。番組は必ずハッピーエンドで終わってくれるのだ(だからこそ番組化された)。
さて問題は、現実の自分自身の人生・キャリアに引き戻したときである。自分がいま報われない環境にあったり、苦境やどうしようもない停滞に陥っていたりするとしよう。……この下積み状態はいったいいつまで続くのか?どこまで努力し耐えたら、みずからの「グラン・ジュテ」が訪れるのか?
いや、ひょっとすると、現実の自分の人生・キャリアには「グラン・ジュテ」など起こらないかもしれない。努力が結果として報われない人生など、周辺にいくらでも転がっているのだ……。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。