ANAが世界で初めて機内で注ぐ「樽生ビール」の提供を7月20日より開始する。通常のビールディスペンサーは、高圧ガスの炭酸ガスボンベを使用するため機内に持ち込みができないが、今回は電機メーカーとの共同開発で航空機内用が実現できたという。そのエポックメイキングなマシンで客室乗務員が手ずから注いでくれる生ビールの価格は1000円。果たしてそれを安いと見るべきか、高いと見るべきか。
<ANAが世界初、機内で注ぐ「樽生ビール」の提供を開始します>(7月13日News2u.net)
http://www.news2u.net/releases/71981
たかが1000円。されど、1000円だ。デフレ価格に慣れきった感覚では4桁は随分と高額に感じてしまうのが否めない。
「今日は頑張ったから、エビスにしちゃおうかな!」と家飲み用に買うプレミアムビールは1缶244円。 飲み会でも、「ちょっとリーズナブルな“わたみん家”にしておこうか」ということになれば、スーパードライの中ジョッキが399円だ。・・・やはり、されど1000円?
価格設定(プライシング)には3Cの視点が欠かせない。Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)である。製造や流通コストがいくらぐらいかかって、それに幾ら利益を乗せようか・・・という自社の事情、「原価志向の価格設定」だけでは当然、売れない。
競合製品と並べて置かれるコンビニのナショナルブランド(NB)商品。昨今は流通のプライベートブランド(PB)商品との競争もある。居酒屋も200円台の均一価格居酒屋が乱立し、そこでは中ジョッキもつまみと同じく200円台である。(ビールではなく第3のビール等新ジャンルを用いている場合もあり)。そして、それを選ぶ消費者の選別眼もデフレ不況にさらされて厳しくなっているのだ。そうした環境での価格設定を「競合志向の価格設定」という。
しかし、競合関係が存在しない場合なら、消費者の選別眼の厳しさも軽減される。例えば、ビールではないが、富士山の山頂には自販機がある。そこで販売されている500mlのペットボトル飲料の価格は500円だ。280mlの缶が400円。フツーに考えればえらく高い。しかし、運搬コストもかかっている。いや、そんなことを考える前に、多くの登山客は喉の渇きを癒すために購入する。なぜなら、他に売っていないからだ。
ビールに話を戻そう。他に買う手段がない場所でのビールの価格。例えば映画館。TOHOシネマズはコンセッション(売店)で係の人がビアサーバーで入れてくれる生ビールが1杯500円。例えば野球場。東京ドームは売り子のお姉さんが背中のタンクからディスペンサーで注いでくれる生ビールが800円。街中の価格からすればどちらも高いが、顧客は惜しげもなく購入する。原則的に場内には持ち込みが禁止で他に買う手段がないという理由もある。しかし、それなら飲まなければいいのだ。富士山の山頂に辿り着いて飲料を求めるほどの肉体的渇望感はないはずだ。だが、映画を観ながら、野球を観戦しながら、ついついビールが飲みたくなる欲求に抗えない。その欲求が充足されるという「価値」があるから買ってもらえるのだ。顧客が幾らまでなら払ってもいいかを考えて設定する価格を「需要志向の価格設定」という。500円、800円は十分需要価格の範囲内なのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。