「いつかはこの味にたどりつくと思っていた」。キリンの第3のビール「本格<辛口麦>」のキャッチコピーだ。たどりついた先にあるものは何だったのか。
「本格<辛口麦>」のCMキャラクターは舘ひろしだ。
「キリンラガー」は菅原文太、江口洋介、黒谷友香。「一番搾り」はイチロー。「淡麗生」は佐藤浩市。「淡麗グリーンラベル」は嵐の大野智、相葉雅紀、松本潤。「コクの時間」は松たか子&原田芳雄。「のどごし生」は、「ぐっさん」こと山口智充。キリンビールのCMキャラクターを眺めるときら星の如き個性的なスターの名前が並ぶ。各々のタレントは各製品がターゲットに持ってもらいたいイメージを体現する存在として設定されている。だとすれば、「本格<辛口麦>」は舘ひろしでどのようなターゲットに、そのようなポジショニングを示そうとしているのだろうか。
タレントからひもとく前に、同社のニュースリリースで見てみよう。
<今まで新ジャンル市場になかった“本格辛口”という価値を持った商品><飲みごたえがありながらキレが実感できる、新しい価値を持った新商品>として5月26日に製品発表がされている。
見逃せないのが開発の背景となる市場環境と顧客ニーズのとらえ方だ。<昨今の景気動向の影響を受けて新ジャンルカテゴリーは拡大を続けており、当社の調査によると、ビールと新ジャンルを併飲する方が増えています>とある。そして、ターゲットは<新ジャンル(第3のビール)ユーザー:特に40代から50代男性のミドル・ヘビーユーザー>であるという。
昨今の景気低迷のあおりを受けて可処分所得、もしくは小遣いが圧迫されて、「晩酌はいつもビール」というわけにいかずに、安価な第3のビールを取り混ぜてローテーションを組むようになったお父さんたち。そんな彼らの切なるニーズは、「第3のビールでもビールらしい『飲みごたえがありながらキレが実感できる』商品が欲しい!」だ。
第3のビールといえば、同社のヒット商品である「のどごし生」に代表されるような、苦みを抑えたのどごし重視の強いクセのないスッキリ滑らかな味だ。それは発泡酒の「淡麗生」の系譜でもある。
では、そもそもの苦みを抑え甘みなどのクセを抑えた味わいのルーツはどこにあるかといえば、1988年にビール業界全体を巻き込んで勃発した「ドライ戦争」の産物である。前年に日本のビールの常識を変えた「キレのある辛口ビール」=「アサヒ スーパードライ」が発売され、市場を席巻。それに追随せんと各メーカーはこぞってキレ=ドライを訴求した商品を上市した。しかし、結局はスーパードライを超えるものはなく、アサヒ一人勝ちの時代へと突入していくことになる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。