7月28日に茨城空港に就航した中国・上海の「春秋航空」が就航した。「茨城-上海間の運賃4000円」という航空運賃を発表し話題を呼んだが、来日した社長が発表を撤回しメディア各紙誌で取り上げられ、さらに話題を呼んでいる。現在の運賃は大手航空会社より1万円以上安いとはいえ、3万円台。今後、破格の価格が実現されることはあるのだろうか。そして、同社は日本市場で成功することができるのだろうか。
春秋航空(しゅんじゅうこうくう)は2004年に発足した中華人民共和国で初めての民間資本系航空会社だ。格安航空会社(Law Cost Carrier=LCC)であり、中国国内の各都市を低廉な運賃で結ぶことを特徴としている。2009年7月、上海万博の開催を契機に中国政府民航局から国際線の運航免許を取得。今年7月に同社として発の国際路線である、上海(浦東)から茨城空港の間を9月末までの約2ヶ月の間、週3便程度のチャーター便の形態で運航。利用状況などを見極めて10月以降の定期便就航化を目指しているという。(Wikipediaの記述等を参考)
同社の格安航空会社(以下、LCC)としてのビジネスモデルの特徴は、バリューチェーン(VC)分析を行うとよくわかる。
航空会社の業務を分解すると、[調達]→[販売]→[運行]→[サービス]というになる。
まず、調達は、使用機体はエアバスA320に統一されている。同社は同機を現在17機保有している。機体の統一は調達条件交渉において有利になることは容易に想像できる。また、路線によって機種を使い分けずに全路線での使い回しが可能となるため運行上の効率も高くなる。さらに、パイロットの採用・訓練も単一機を前提とすれば容易になる。同様に、機体のメンテナンスも単一機種ならではの効率化が図れるというメリットがある。
チケットの販売はウェブサイトでの予約を中心として中間マージンの低減を図っている。さらに中国国内では、中国民航ネットワーク販売システムでのチケットを販売しておらず、自社系列上海春秋国際旅行社のネットワークの利用が前提となっている。また、基本的に変更、返金、欠航保障には応じていない。つまり、自社の収益を最大化し、機会損失を極小化する仕組みを構築していることがわかる。
運行におけるカギは搭乗率だ。中国国内での平均は94~95%にものぼるといい、「茨城着が85%、上海着が80%と満足していない」と同社社長が第一便の状況に関してコメントを発表している。(日経MJ8月2日掲載)。
つまり、機体にできるだけ多くの客席を作って、低廉な価格で客を集めて搭乗率を高め、高回転で機体を回していくという運行が基本となっているのだ。調達の項で述べた17機のA320を徹底して高回転で就航させる。キリギリの機体繰りによる遅延は日常的になっており、茨城から上海に向けた出発も1時間20分遅れたというが、「中国においては平均的レベル」と同社社長も問題視していないコメントを述べている。
空港に支払うコストも徹底して削減を図っている。茨城空港への第一便到着時に、客がタラップを使っておりてくる映像がメディアで流されていた。同空港は出発ロビーと到着ロビーが同じ1階に設置されており、ボーディング・ブリッジは設置せず、タラップを使って搭乗する構造になっている。そのため、航空会社が空港に支払う空港使用料も低廉なものになる。茨城空港が選ばれた理由の一端はそこにもある。もっとも地方空港はそもそも利用料金は安く、特に就航会社獲得に必死だった茨城空港は料金交渉上有利だという同社の判断基準が最大の理由であることは間違いない。
サービスは春秋航空の一番特徴的な部分であるといえるだろう。機内は全てエコノミーでファーストやビジネスといったクラスは設定されていない。また、エコノミーといっても、通常の航空会社よりシートピッチが狭く機内に180席を確保している。シートのリクライニングもないという。また、機内サービスは全て有料。それだけではなく、キャビンアテンダント(CA)は上空では「売り子」に早変わりする。食べ物や菓子、玩具、電化製品やファッション用品を市価より高額で延々と販売するという。それが中国国内ではいい勢いで売れているらしい。メディアでは、同社の乗務員1人あたりの人件費が日系航空会社の10分の1(操縦士は3分の1)であると報じられていたが、CAの給与は機内販売の歩合給が設定されているのだと推測できる。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。