日経MJ8月4日版総合小売り面に、松坂屋上野店の生き残り戦略が紹介されていた。その記事から、これからの日本における商売の姿を少し拡大して考えてみよう。
コラムのタイトルは「売る技術 光る戦略」。「松坂屋上野店、日常使いの食品売り場」「周辺住民向けに献立提案」というサブタイトルが目に付く。
「献立提案」をしているのは、野菜ソムリエの資格を取得した同社の社員。「特別な日のごちそう」ではなく、その日に入荷した日常使いできる野菜を、「日々の献立に困る主婦」に対して手書きレシピのPOPや試食コーナー、アドバイスを通じて販売するという。
その主婦とは店舗近隣在住の中高齢者であり、通常の販売形態では「食べきれない」という要望に対し野菜1本単位で販売する。魚なら切り身一切、総菜も通常の半分・50グラム単位だという。但し、価格は安くはない。百貨店らしい品揃え・品質を、顧客にピッタリな販売単位で、さらにメニュー提案や使い方のアドバイスとともに提供する。
商品の品質と価値を、少し高めの価格で受容する近隣の中高年層をターゲットとして商売をしているというのが、松坂屋上野店のデパ地下の構図だ。
記事によれば、同店、同売場の展開は、大丸松坂屋全体の戦略を実現したものであるらしい。<大丸松坂屋は昨年から画一的な店づくりを廃し、顧客や立地など個別の特性に対応することで生き残る先戦略に切り替えた>とある。そして記事は、<縮小の一途を辿る百貨店>のひとつの解であると結んでいる。
「縮小の一途を辿る」のは、百貨店業界だけではない。日本市場のこれからを考えれば、人口の推移から容易に想像できる。
日本の総人口は2004年12月の1億2783万8000人をピークに、今後加速度的に減少していく。実に30年毎に3分の2に減少していくのだ。筆者もうっかりするとあと30年くらい生きてしまうかもしれない。その時、人口が8000万人に減少した日本に住んでいるのだ。
縮小する市場で「市場シェア」を占有する意義は低下する。一定シェアを維持できたとしても、パイ自体が縮小していくのだ。
「目指すべくは、市場シェアよりも顧客シェア」と言われたのがCRM(Customer Relationship Management=顧客関係性管理)が注目された2000年頃であった。一人一人の顧客をいかに囲い込んで、その顧客のLTV(Life Time Value=生涯価値)を最大化する。反復利用を長期にわたって促して自社に落としてもらう金額をできるだけ多くすることが目標だ。10年が経過して市場縮小が明確になった今、改めてその概念の重要性を高まっているのである。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。