外来種・ハイアールはガラパゴス・日本を席巻するのか?

2010.09.16

営業・マーケティング

外来種・ハイアールはガラパゴス・日本を席巻するのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 中国家電最大手の海爾集団(ハイアール)の名が連日、日経新聞の紙面に登場している。「ガラパゴス」と揶揄される日本の家電市場で、その存在感を増している証左である。

 9月14日の日経企業2面に「中国ハイアール 日本で中・高級家電 中型冷蔵庫など1~2割安く」という見出しの記事が掲載された。従来、日本メーカーが手掛けていない、単身者向けの小型製品などを展開していた同社が、国内の主力市場であるファミリー向け製品に全面参入の予定であることを伝えている。大手家電メーカーやECサイトでもその名を見る機会が増えてきた「ハイアール」。記事にもあるように、冷蔵庫・洗濯機の世界最大の生産台数を誇る、白物家電では世界最大手企業である。「家電王国・日本」などという称号はもはや昔日。同社は成長著しい自国中国を中心にインド、さらに欧州にも販売拠点を広げ、ついに日本市場にも全面参入を表明したのである。

 国内市場が下手に大きく、そこで十分成長できてきたが故に、自国市場のニーズに対応した独自仕様で世界には通用しなくなってしまったとされる日本製品。絶海の孤島・ガラパゴス島になぞらえられ、ガラパゴス携帯を略して「ガラケー」などと揶揄する。
 その、本家ガラパゴス島のことを欧米人の多くは実は知らないとされているが、日本人もどれくらいの人が実態を知っているだろうか。地球環境問題と関連して、温暖化による海水温の上昇で海草が死滅し、食糧不足で海イグアナの体長が小さくなるなどの変化が起きている。さらに甚大な被害をもたらしているのは、多数の人間が島に入り込んだことによって、本来島に生育していなかった生物、外来種がはびこり、独自の生態系が破壊されつつあるという。・・・なにやら、日本市場と細部まで酷似しているようではないだろうか。

 日本の家電市場には、中国メーカーの製品が繁茂する余地はどこにあったのだろうか。
一つはやはり、環境の変化だ。上記記事の翌日、9月15日の日経新聞消費面のコラム「消費のなぜ」。「洗濯機『縦型』牽引 ドラム式との機能差縮小 値頃感増す」という見出しで掲載されている。ここ数年、洗濯槽が横に回る「ドラム式」が人気だったが、省水量型など機能向上と、何より価格の安さが人気で「縦型」が買われているという。購入層は、単身・少人数世帯やマンションなどの狭小住居世帯。さらに、ドラム式に装備されている「完全乾燥機能」をオーバースペックと感じている層などであるという。
 マクロ環境で考えれば、日本の人口は2005年から縮小に転じている。2015年までは世帯数は増加するが、そのほとんどが単身・少人数世帯である。さらに長引く不景気は財布の紐を引き締め、買い換えるたびにグレードアップするという、「すごろく型の消費」などはもはや過去の購買行動でしかない。
 日本向けのハイアールの家電は、日本向けのデザインや機能を搭載し、製品開発されるという。しかし、オーバースペックな開発はせず、「必要十分」というレベルで価格を抑え、コストパフォーマンスの良さで勝負をかけてくるはずだ。価格は安いが、そこそこ品質がいい「グッドバリュー戦略」。アパレルに例えるなら、ファーストリテイリングの「ジーユー(g.u.)」のような競争価格戦略のポジションだ。昨今の消費者の多くは「それでも十分」という購買意志決定をする。最高の品質・最高の価格という「プレミアム戦略」だけが支持される時代ではない。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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