各メディアによると、吉野家は4日、9月7日に発売した「牛鍋丼」の販売数が1千万食を超えたと発表した。一方で、すき家・松屋との牛丼低価格戦争離脱のための、もう一つの戦略商品「牛キムチクッパ」を約1ヶ月発売延期し、11月目処としたという。その理由と影響は何だろうか。
何度も繰り返される牛丼値下げ合戦は、先月7日から吉野家が280円の「牛鍋丼」を発売したことによって、新たなステージに突入した。吉野家の新商品を牽制する意味で、すき家が「秋の感謝祭」として、並盛・250円という低価格キャンペーンを実施。松屋も、8月に引き続き、異例の2ヶ月連続で9月もキャンペーンを実施した。吉野家の今後も命運をかけた「牛鍋丼」の出鼻をくじく作戦だった。
しかし、軍配は吉野家に上がった。1ヶ月で販売数1千万食を達成。メディアによれば、来店客の約6割が注文しているという。「低価格で他社に流れた自社顧客を取り戻し、メニューの新規性で他社客を取り込む」吉野家の戦略骨子は当面達成できていると判断できるだろう。自社に戻ってきた顧客は、牛鍋丼だけでなく、牛丼にも回帰している。筆者もそうであり、店内を見回しても牛丼注文者も数多い。それが4割の数字をたたき出しているのだろう。
今後も他社は、相変わらず定価280円~320円。頻繁に最低価格の250円キャンペーン構成を続けると思われる。なぜなら、そもそもその価格レンジは、不景気の折、ランチ予算を300円~500円に抑えたいとする人が多く、コンビニ弁当などが割高だと敬遠されはじめる動きがある中で、牛丼チェーンがその層の吸引に成功しているからだ。コンビニで300円で買えるものは、大型のカップ麺と昆布などの安い具のおにぎり1個でしかない。とても寂しい。300円前後の牛丼が人気になるのは自然な流れなのだ。
他社の攻勢をしのぐためにも、吉野家は280円メニューを1枚看板のままにしておくことはできない。そのための新メニュー第2弾「牛キムチクッパ」なのだ。しかし、各メディアは<「牛鍋丼が予想を上回る反響があり、 第2弾については準備に万全を期す必要があると判断した」>と同社の発表を掲載している。
新メニューの展開は、現場オペレーションに大きな負荷がかかる。そのため、牛鍋丼の発売に際し、豚丼などの豚系メニューは現在も販売を休止している。しかし、従来、メニューの貧弱さが指摘され、それが顧客囲い込みの弱さの現況であるとの指摘も強いため、新メニューの展開も急ぎたいところだ。
それだけではない。牛鍋丼の肉は、従来吉野家がこだわってきた「米国産・ショートプレート部位」とは別部位の米国産牛9割と豪州産1割のブレンドである。故に、その原材料の価格低下を図るためにも「使用量を高める」=「販売数を増やす」ことが欠かせない。「規模化」である。そのためには、牛鍋丼が大人気であるといっても、新メニューも加えて販売数を加速したいはずだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。