「ヒットまでには実は長い寄り道があった」と、「無印良品」のマネージャーが語っているのは、あるジャケットの話。店頭で鳴かず飛ばずで、半年で大幅値引きの在庫一掃から、「顧客視点」で全面的な見直しを図り、計画の3倍という売上げにまで化けさせたという。11月8日付日経MJ3面コラム「着眼着想」に掲載された記事をもう少し深掘りして考えてみよう。
記事にある、売れずに在庫一掃となったジャケットは、ナイロン素材でたたんでもシワにならない「たためるジャケット」という商品だという。
カジュアル化する一方に思える男性のファッションだが、ジャケットは意外と外せないアイテムだ。カジュアルでもちょっとキリッとしたテイストを出したい時。ちょっと改まった場所に行く時など。その証拠に、2010年流行の一つは、「ジャージー素材のジャケット」だ。見た目はちゃんとしたジャケットなのに、ストレッチ素材なので、とても楽。肩パットなども入っていないため、カジュアルウエアにもよく合って、1着あれば大活躍だ。
無印良品の「たためるジャケット」が登場したのは、そんな今年のトレンドが生まれる2年前。2008年のこと。「着心地が楽」というより、「たためる」という名前と素材は、「不意に必要になった時」や、「必要に応じて一時的に着用する」ことを主眼としているはずだ。
ジャケットに大敵なのはシワ。スーツであれば、パンツの折り目がないのは何ともいただけないが、ジャケット単体のカジュアル姿でも、シワシワではどうにも情けない。かといって、シワにならないように持ち歩こうとすると、何とも邪魔になる。今年流行のジャージー素材も比較的シワになりにくいが、畳んでカバンに入れるにはかさばる。
では、そもそも、「不意に必要になった時」や、「必要に応じて一時的に着用する」なんてシーンがやってくるのはどんな時だろうか。記事では売れなかった原因を<「畳めるとどんなメリットがあるのか、消費者には伝わらなかった」という結論に到達。使用シーンを旅行に絞って商品を改良することに決めた>とある。
「商品を改良」とあるものの、実は、マーケティング・ミックス(4P)をきれいに整合させていることが判る。以下が改良のポイントだ。
・商品(Product):商品名も商品の一部だが、<わかりやすさを最優先した>として、「旅に便利なジャケット」と改めた。シワになりにくさはそのままに、持ち運びを考え、通常の夏物ジャケットの半分の150gに仕上げた。旅行者のニーズであるパスポートや小物収納に便利なようにポケットの形状やサイズを変更したり、付加したりした。
・販路(Place):取扱店は<空港内の4店舗と、ホームページの旅行コーナーのみ>に絞った。
・広告(Promotion):旅行雑誌だけに限定して出稿した。
と、上記のように<(商品の)機能、(販路の)立地、(広告と商品の名前という)訴求方法。「3つがリンクしてヒット商品に生まれ変わった」>とマネージャーのコメントを伝えている。
記事の内容にもう一つ付け加えたいのが、価格(Price)である8,900円は、売れなかった時と変わっていないのかもしれないが、他の要素とうまく整合している。海外旅行は早めに空港に着く。ブラブラと店舗を見て目に付いた便利そうなジャケットが1万円を切る価格であれば、「ハレの日」で気前のいい出費モードになっている人を購入に向かわせることもできる。さらに、旅行情報を収集中のWeb閲覧者も、旅行計画が決まっている人なら、同様に準備品購入リストに入れさせて、ホームページか空港店舗で買わせることができる。「旅行で必要かも!」という需要を喚起して、「これなら買ってもいい」と思わせるカスタマーバリューに適合した価格設定になっているのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。