クールビズの話題に惹かれ、専門家の立場として一言。そもそも洋服って何、というお話しです。
ファッションの専門家である私が言うのも何だが、洋服はヨーロッパの服であり、日本の風土には適していない。ヨーロッパの地中海気候は、夏は湿度が低く、冬の湿度が高い。日本の温帯モンスーン気候は夏は高温多湿、冬は低温乾燥だ。
日本は昔から「家は夏向きに建てろ」と言われ、風通しと日当たりを重視する。ヨーロッパの家屋は、外気と遮断するのが原則。風が通ることを嫌い、家具が焼けるからと窓も小さい。
同様に、ヨーロッパの服も外気と遮断する。ネクタイを締め、カフスを留め、ベルトを締める。足には革靴を履き、外気をシャットアウト。
日本のきものは、風通しが良い。襟元、袂、裾を開放し、締めるのは最低限の帯だけ。夏には裸で仕事をする人も多く、労働者は褌一丁だった。しかし、江戸時代から銭湯が発達し、一日に何度も湯に入る人が多かったそうだ。ヨーロッパはドップリと浸かるような入浴は稀であり、体臭を防ぐために香水が発達した。
気候風土も宗教も美意識も異なる日本人が洋服を採り入れたのは、欧米列強の植民地化を防ぐためにヨーロッパ文化を無条件に採り入れたためである。鹿鳴館では胴長短足の武士が夫人と共に社交ダンスを踊ってみせ、その不格好な様子は世界で揶揄されたものだ。しかし、そうした先陣のお蔭で日本は先進国の仲間入りをしたのだから、馬鹿にしてはならないだろう。
現在、ビジネスドレスコードと言われているものも、単にヨーロッパの基準を導入しただけであり、「なぜ、そういうドレスコードが存在するのか」という論理的根拠も知らない人が大多数だろう。
かつて、中国が経済成長する前、男性は半袖のシャツを前ボタンを留めずに羽織り、下はブカブカの短パン、サンダルで自転車に乗っていた。これこそ、温帯モンスーン気候に適したスタイルだ。それは、植木等でお馴染みの、腹巻、ステテコにカンカン帽のスタイルに共通している。当時の日本人は日本の気候に適したスタイルを選んでいたのである。
クールビズというアプローチは、あくまで洋服を規範にしたものだ。しかし、日本の気候風土に合った、健康に良い服というアプローチもあるだろう。
ネクタイの有無が話題になっているが、なぜ、ネクタイがあのような形になったのか。なぜ、ネクタイを締めるのかを答えられる人はほとんどいない。
ドレスコードと言うのならば、なぜ、日本人は上下揃いのスーツが多いのに対し、欧米ではジャケットとパンツのセパレーツスタイルが多いのか。なぜ、「なぜ」と思わないのか、が疑問なのだ。
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2009.02.10
2015.01.26