11月17日付日経MJ6面の小さなコラム「消費 見所 カン所」に、丸井グループの青井社長のコメントが掲載されていた。タイトルは「見えない価値取り入れ」。 「見えない価値」とは一体何だろうか。
記事では<「見えない価値」とは、服の着心地やバッグの使い勝手といった使う人の内面的な価値のこと>だと青井社長はコメントしている。実績もある。<消費者の意見を元に履きやすさにこだわったパンプスを開発したところ、従来のプライベートブランド(PB=自主企画)商品の約8倍売れた>とある。
使い心地や使い勝手は確かに重要だし、そうでなければ困る。だが、あえて、流通業のトップがそれを強調しているところに意味がある。青井社長は「内面的な価値」ともいっている。では、使い心地や使い勝手に優れた商品を手にした時に充足される、内面的な満足感とは何だろうか。恐らく「ああ、自分にピッタリだ。よかった!」だろう。
そう考えると、実はその満足感の重要性が増しているのは、今日の消費者の価値観の大きな変化を表しているのだ。
丸井といえば、かつてデザイナーズブランド全盛時代に青春時代を過ごした筆者が足繁く通ったものだ。その頃の服のサイズはMとLしかないとか、Fと記して「フリー」や「One Size Fits All」という設定が多かった。(当時の)若者としては少々小柄で、(当時は)細かった筆者にはなかなかに絶望的なサイズ設定で、「F:One Size Fits All」などという表示を見ると、「そんなわけあるかよ!」と内心で毒づいていたものだった。・・・だけど、買っちゃうのだ。ちょっとサイズが合わなくても、そのブランドが、流行の服が着たいから。
かつては、「服に自分を合わせていた」のだ。それが、「自分にピッタリの服じゃなければ欲しくない」という意識に180度変わっている。
この夏登場した、リーバイスのジーンズのレディースライン「Levi s Curve ID(カーブアイディー)」。全世界6万人、日本女性6千人のボディサイズから導き出した‘3つのカーブ’を元に3タイプ×ウエストサイズで展開されている。同商品のキャッチコピーがいい。「これからは、サイズより自分のシェイプにあわせる。」だ。まさに「自分にピッタリ」が価値であることを表している。
「自分にピッタリ」を「relevant(適切な)」という言葉に置き換えてみると、あるブランド理論が援用できる。米国の大手広告代理店Young & Rubicam(日本では電通Young & Rubicam http://www.dyr.co.jp )はBAV(Brand Asset Valuator)という理論でグローバルブランドの評価を1993年から続けている。その基本的な指標の1つがThe Four Pillars(4つの柱)というものだ。Differentiation(差別化活力)=ブランドならではの違いをどの程度ダイナミックに提案しているか・Relevance(適切性)=どの程度自分にふさわしいと思われているか・Esteem(尊重・評価)=どの程度高く評価され尊重されているか・Knowledge(認知・理解)=どの程度認知理解されているか、だ。 実際には上記4指標のバランスなどで詳細な分析をするのだが、ここはDifferentiation(差別化活力)とRelevance(適切性)の関係だけに注目する。BAVでは、Differentiation > Relevanceという状態は、ブランドに他にはない個性や特徴を提案する活力ある状態だと見る。一方、その逆は、ブランドが差別化活力を失ってコモデティー化し、価格や便利さなどが購入理由の中心となっている危険な兆候であると見る。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。