あなたは家電量販店・PCコーナーの店員だったとする。「デスクトップからノートに買い換えたいんですけどぉ」という客が現れたら、その言葉の裏にどのような背景を読み取るだろうか。
来店客を一瞥して、「どんなスペックのものをお探しですか?」と聞く。「モニター16インチ以上でブルーレイディスクと地デジ・BSチューナー内蔵がいいんですけど・・・」などと答えたら、「(しめしめ、イメージが具体的になっているじゃないか)では、オススメはコレですね!」とNECのLaVie Lシリーズなんかを提示する。
しかし、そのニーズを掘り下げてみると、思いもよらぬ競合が浮かび上がってくることがある。実は「部屋が狭いため、スペースを有効に使いたい。だから、ブラウン管のテレビを地デジ対応に換えるついでに、古いデスクトップのPCをノートにして、DVDプレイヤーだけでなくブルーレイも見られるようにしたい」ということかもしれない。だとすれば、当面必要な「安価な液晶テレビ」を買って、部屋のスペースの有効利用は「整理家具」で済ませてしまうかもしれない。つまり、思わぬ競合に負けるのだ。
思わぬ競合に圧されている業界がある。カバンの業界だ。
11月11日の日本経済新聞に『付録に手提げやポーチ、雑誌が売れてかばん不振、「日常、事足りる」買い控え』という記事が掲載された。記事では、矢野経済研究所の担当者が<「リーマン・ショック後にブランド品が落ち込んだほか、旅行需要の減少と付録雑誌の好調が影響した」とし、「付録とはいえ人気ブランドのものも多くメーンに使う人も少なくない。それが(かばん自体の)買い控えにつながった」>とコメントしている。具体的な数字では、<09年のかばん類の小売市場規模は08年比9・2%減の9352億円。減少は8年連続だが、09年はマイナス幅が突出して大きい>という。また、都内勤務の女性会社員(30)のコメントを<「雑誌は付録で選ぶ。家には何十個もバッグ類がある」と笑う。この日も人気ブランド「アニエスベー」の手提げ付きの雑誌を購入。「付録で事足りるので、最近は全くバッグを買わなくなった」>と掲載している。
ブランドもののカバンを買う顧客のニーズとは何か。全ての人がそうではないにしても、上記の状況を見ると、「何らかのブランドものであること」だったのではないだろうか。ブランドの持つ、その創業由来の堅牢さや、醸し出されるセンスなどが感じられない、付録の袋もの特有の画一的な質感。でも、ブランドの監修だったり、コラボレーションだったりする。「それで十分」としてしまう。
長引くデフレ不況。リーマン・ショック後の雇用や所得に関する不安は。当然、世の中全体として、華美な消費は控える傾向が顕著になる。一方、雑誌業界を取りまく環境は、年々発行部数を減らし、廃刊も相次いでいる。その状況を打開すべく日本雑誌協会は、輸送に支障をきたすことを理由として、雑誌付録の素材や大きさなどに厳しい基準を設けていた「雑誌作成上の留意事項」を2001年に大幅に緩和。公正取引委員会も2007年に「景品表示法」を1000円未満の商品であれば、ベタ付け(総付け)景品の上限を100円から200円に引き上げる緩和を行った。これらの規制緩和と社会的な変化が後押しして、女性誌の付録が一気に加熱したのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。